Column of Fashion meets Car 5 HIPHOP with Car

ラッパーたちの車に見る 彼らの自己表現

ヒップホップと車は切っても切り離せないものだ。かつてブロンクスのストリートから始まったラッパーたちは車、ゴールドやジュエリーで自身をフレックスしてきた。ヒップホップがメインストリームとなった現代。多様化するヒップホップと同様に、車の種類やデザインも個性豊かに変化している。自身の価値を表現し、時には本来の自分以上の価値を誇示するための存在ともなった車を紹介していく。あなたの好きなアーティストはどんな車に乗っているだろうか?

Mercedes Benz 190E 2.5-16 Evolution II by A$AP Rocky

Photo Crystal Pictures/Aflo

A$APスタイルで彩られた特別な1台

メルセデス・ベンツ 190E エボ2といえば1990年に生産された希少モデル。ツーリングカーレース用のホモロゲーションモデルとして500台のみが生産され、今なお絶大な人気を誇っている。オークションへ出品されれば数十万ドルの値がつくという代物だが、ロッキーはこれをA$APスタイルにアレンジ。元は「Need For Speed」というゲーム内でプレゼントされたものらしいが、本人用に実車もある模様。リアウイングには自身のクリエイティブチーム「AWGE」のブランドロゴが施され、運転席、助手席のドアにはA$AP MOBのスローガンである“Always $trive and Prosper” “If Not Now Then When”のレタリングが施されている。モノクロのツートーンカラーに金の装飾が施され一見派手にも見えるが、現代のファッションアイコンであるロッキーにとってはぴったりの1台なのかもしれない。

Fiat 131 Abarth Rally by Tyler The Creator

Photo Backgrid/Aflo

車で表現するタイラーの世界

ラッパーとしてグラミー賞を受賞し、自身のブランド「GOLF le FLEUR」では多数のブランドコラボを果たすなど、多方面での才能を見せるタイラー·ザ·クリエイター。Lancia Delta HF Integrale、BMW E30 M3、Mclaren MP4-12Cなど新旧問わずさまざまな車をコレクションしている彼だが、その中でも最もタイラーらしいと言えるのが、この一台だろう。70年代に生産されたラリーカーをタイラーはパステルピンクにアレンジ。普段からクラシックモダンな装いが特徴的な彼にぴったりな車だ。以前インタビューで「全てのアイディアが結局一つの作品に集約される。その結果が自分の世界観なんだ」と答えていた彼。この車に乗ることも彼の独自の世界観を作り出すためのアイディアの一つなのだろう。

Lamborghini Aventador by Travi$ Scott

Photo Backgrid/Aflo

色で主張するトラヴィスというスタイル

ヒップホップ業界において常に革新と進化を追求し続けるトラヴィス・スコット。前作のサイケな作風から一変、ディストピア的な世界観を作り出した新アルバム「Utopia」をはじめ、自身のレーベル、Cactus JackではNIKEからディオール、フォートナイト、そしてオーデマ・ピゲなど多岐にわたるコラボレーションを行いそのどれもが話題の旋風を巻き起こしている。ニッキー・ミナージュと同車種だが、カスタムの違いにより全く違った雰囲気を醸し出している。Cactus Jackで見られるブラウンを多用したスタイルは車でも変わらず、ロサンゼルスのカスタム専門店「ウエストコースト・カスタムズ」にて500万円以上をかけてフルカスタムした本車は内装も同色で仕上げられている。90年代にギャングたちがチームカラーでお互いを主張し合ったような、色での自己表現は今に引き継がれている。

Lamborghini Aventador by Nicki Minaj

Photo Reuters/Afro

トップオブフィメールラッパーの威厳

「Beauty And A Beat」「Bang Bang」などニッキー・ミナージュのメインストリームでの成功はそれ以降のフィメールラッパーの活躍への門戸を開くきっかけとなったことは間違いない。また、派手髪に個性的な服装、セクシャルを厭わない強いメッセージも同時にロールモデルとなったことは確かだろう。そんな彼女の車はほかのどのラッパーよりも自身のキャラクターと成功を表したものと言える。写真のアベンタドールに始まり、ブガッティ・ベイロン、ロールス・ロイス カリナン、ベントレー・コンチネンタル GTなどが全てピンク色にカスタムされ、彼女のスタイルで表現されている。彼女は当初、レコード会社にデモCDを売り込みに行き「フィメールラッパーの時代は終わった」と門前払いを受けたというストーリーがあるのだが、現在の成功を見ると、この車だけでなく音楽シーン全てをニッキー・ミナージュ色に染め上げているのかもしれない。

Tesla Model X by Jaden Smith

Photo Backgrid/Aflo

新たなフレックスの形

俳優としてキャリアをスタートしたジェイデン・スミスは現在、ザ・フレッシュ・プリンスの意志を引き継ぎ、若手ラッパーの筆頭として着実にキャリアを積んでいる。そんな彼のもう一つの顔といえば環境活動家だ。環境メディア教会での演説活動や、自身の会社「JUST GOODS」で販売されているミネラルウォーター「JUST WATER」は生分解性素材の紙製ボトルを使用するなど環境保全に対してかなり積極的に取り組んでいる。そんな彼にとってテスラを選ぶのは必然のようだ。電気自動車でありながら0-100km/2.6秒というスーパーカー並みの性能をもつ高級SUVであるテスラ・モデル・Xはラッパーであり環境活動家のジェイデンに最適な1台。新世代ラッパーにとっての車は富の表れだけでなく、自身の政治的思想を反映する為のもの。彼らにとってはそれもひとつのフレックスと言えるのかもしれない。

Rolls Royce Fantom by Drake

Photo X17/Aflo

夢を現実にした勝利の女神

たとえヒップホップに興味がなくとも、ドレイクの名を知らない人はいないのではないのだろうか。チャートで彼の名前を見ない方が少ないかもしれない。現在彼はプライベートでロールス・ロイスを乗り回し、クロムハーツへのカスタムオーダーによってフルカスタムを行うほどの富と名声を手に入れたが、そんな彼にも夢見る青年時代があった。2007年当時の彼は自身の成功を信じ、写真と同じロールス・ロイス・ファントムを1ヶ月73万円でレンタルし乗っていたそうだ。自分はなんでもできると実感するための行動だったそうだが、車がヒップホップにおける重要な自己主張の形であり、ヒップホップドリームの偉大さを感じさせてくれるエピソードだ。

Mercedes Benz 190E Series by A$AP Ferg

Photo INSTARimages/Aflo

ラッパーにとっての“富”の代名詞であるベンツ

ヒップホップにとってベンツは特別な1台だ。車がリリックの中に頻出するヒップホップにおいて、ベンツは登場回数堂々の第1位と言われ、高級車の代名詞となっている。実際ファーグ自身も「World is mine」、「China town」や「Swipe Life」などでベンツを自慢する様子などを歌っている。190Eシリーズは1980年代にブルーノ・サッコによってデザインされた当時メルセデス最小の車種である。小型ではあるものの角張ったデザインと質実剛健な作りは高級車でありながら、タフさも兼ね備えている。エボⅡに代表されるように人気も上昇中。タフでクラシックな高級車はゲトーからのしあがっていった彼らにとって理想の車のひとつだ。

Lamborghini Huracán by Lil Uzi Vert

Photo Prince Williams/delegate

アクセサリー感覚で乗りこなすスーパーカー

ランボルギーニ・ウラカンはV10エンジンを搭載し、最高時速は325km/h、コックピットのようなダッシュボードにソリッドなデザイン。まさにスーパーカーの代名詞とも言えるデザインだ。サウンドクラウドラッパーとして頭角を表し、現在は人気ラッパーのひとりとなったリル・ウジ・ヴァート。25億円かけて額にダイヤモンドを埋め込んだり、惑星の所有権を獲得するために数十億円を払おうとしたりとその個性的な出立ちと行動がゆえに金に糸目をつけないウジ。この高性能な車をリル・ウジ・ヴァートが乗りこなせているのかは定かではないが、そんな彼にとっては一種のアクセサリー感覚なのかもしれない。

Mercedes-Benz SLR Stirling Moss by Kanye West

Photo Crystal Pictures/Aflo

時代の寵児を表す車

盟友であるヴァージル・アブローとの1枚。ヴァージルとカニエは共にフェンディでインターンを共にしていたことは周知の事実だろう。二人の関係性は深く、カニエとジェイ・Zの共同制作アルバム「Watch the Throne」のアートディレクターもヴァージルが務めている。そんなカニエが乗っているのはイギリス・マクラーレンがメルセデス・ベンツと共同開発したもの。同車は全世界限定75台、価格は1億1000万円と高額だが、当時アーティストしてもファッションデザイナーとしても隆盛を極めていた彼にとっては安い買い物だったのかもしれない。しかし、バレンシアガ、アディダス、ギャップとの契約が切れた現在はこの車を含むほぼ全てを売却済みとのこと。音楽、ファッション共に一時代を築いた彼にはぜひ返り咲き、もう一度高級車を乗り回す様を見てみたいものだ。

Porsche 911 (Typ 964) by 21 Savage

Photo Prince Williams/contributor

車選びに見える人間性

911は半世紀以上に渡りフラッグシップモデルを務め、ポルシェのDNAを最もピュアに受け継いでいる。その中でもタイプ964は1989年から1993年にかけて生産された3代目のモデル。外観は初代911を引き継ぎながらも8割のパーツを新製し、ポルシェ史上初の4WDシステムを導入するなど当時最新鋭の技術が導入された911の中でも人気のモデルだ。そんな911に乗る21サヴェージはマンブルラップ(リリックに重きを置かないフロー中心のラップスタイル)を得意とする人物。知性的ではないと批判されがちな彼のスタイルとは裏腹に、近年グラミー賞にノミネートされる姿やほかのアーティストからリスペクトされている姿を見ると、車選び同様知的でエレガンスな人間性の持ち主なのかもしれない。

Project MAYBACH by Virgil Abloh

Photo picture alliance/Aflo

遺作となったコンセプトカー

オフホワイトのデザイナーであり、ルイ・ヴィトンの元メンズクリエティブディレクターを務めたヴァージル。そんな彼がメルセデス・ベンツとの2度目のコラボレーション「Project MAYBACH」によって制作されたコンセプトカーがこの1台。彼の逝去により惜しくもこれが最後のコラボとなってしまった。「自然と一体化し、冒険を楽しむ」をコンセプトにオフロード走行を想定されており、全長6mの車体に巨大なタイヤを持ち、EV仕様で天井は自然を楽しむためクリア素材で設計されている。アウトドア向けでありながらラグジュアリーさを忘れない建築科出身の彼だからこそできる構築的なアプローチがなされている。この実車はドレイクのMV「Sticky」に登場しており、彼がいかにヒップホップ業界で厚い信頼を得ていたのかが良くわかるエピソードだ。

Chrysler Cordoba by Snoop Dogg

Photo Backgrid/Aflo

変わらない格好よさをもつスヌープのスタイル

最後に紹介したいのは「アンクル・スヌープ」の愛称で多くのラッパーからリスペクトされるスヌープ・ドッグ。クライスラー・コルドバは1975年に生産された、シボレー・モンテカルロ、フォード・サンダーバードなどと対をなした、アメ車の代表とも言える一台。多くのラッパーが最新のスーパーカーやラグジュアリーカーを乗りこなす中、クラシックアメリカンに乗り続ける姿からはOGラッパーの貫禄が見て取れる。2022年にデス・ロウ・レコードを買収したスヌープ。シュグ・ナイトとの訣別により長く離れていたレーベルにオーナーという形で返り咲くことになった。現在は音楽プラットフォームの開発などさまざまなプロジェクトを計画しているそうだ。クラシックスタイルを愛する彼がどのように新しいものを生み出していくのか楽しみだ。

Edit Katsuya Kondo

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