ART & CRAFTS Sculputure DAIGO OHMURA
工芸の技法とアートの考え方を 両立する大村の彫刻
工芸の技法と
アート的な考え方
謎の物体。素直にそう表現したくなるこの作品から何を想像するだろうか。色や形、素材、質感、重さなどの物質的な要素はもちろん、ミニマルな造形がゆえにどのようなメッセージが込められているのか。大理石や欅の木などさまざまな素材から削り出されたこれらの彫刻は、「道具と身体」「建物と装飾」などものごとの関係性から生まれる“意味”をテーマにしたものづくりを行う大村大悟の作品。本連載のナビゲーター を務めるクリエイティブディレクターの南貴之は、大村の作品をこう評する。
「大村さんの作品を初めて目にしたのは、滋賀県にあるギャラリーショップNOTA_ SHOPでした。とにかく大きな石を削り出したボゴッとした塊がポンっと置かれていて、『なんだこれは』と。それで作品についてギャラリーの人に話を聞いてみると、その大きな石から離れた場所にポツンと置かれたとても小さな石の彫刻とセットで一つの作品だと説明されました。その瞬間にこの対照的な大小二つの石の彫刻の間にいろいろな関係を考え始めてしまい、とにかくとんでもない作家がいるのだなと驚きました。それが最初の出会いでしたね。工芸の 技法を用いているのですが、考え方はアートの要素が強くてユニーク。これまでもさまざまな作家さんと出会ってきましたが、アートか工芸のどちらかに寄っていることが多い。でも大村さんはその丁度中間にいるような珍しい方だと思います(南)」。
ものごとの関係性から生まれる意味
大村は実用的なものも多く制作しており、木を削ってくり抜いてお米一合がぴったり入る一合椀や、一尺ぴったりの長さのブロンズの棒など、どれも予約待ちが出るほどの人気の作品だ。いづれも明確な用途を持った道具とも言えるが、そのようなものづくりと分け隔てなく作っているのが今回の彫刻作品。大村は電動工具やノミなどの手工具を使ってさまざまな素材の塊を削り出していく。「削り出していく途中で、当初考えていた形とは違ったものになることも多いですね。素材に触れながら作業することで、よりその素材に適した形が見えてくるというか。最終的にはこのようにシンプルな形に落ち着いていくのですが、どれも真球型ではなく卵型に近くなります。最後は手作業で仕上げるのですが、触るとボコボコとした質感も残るようにしていて。鑑賞者には実際にこの作品を目にして、触れてもらい、僕の作品制作の過程を追体験してもらいたいなと思っています。とはいえあまり造形的な作品を目指している訳ではなく、ものごとの関係性をどう生み出せるかが僕の作品において何よりも重要なテーマです。
左の写真の一番奥にある黒い彫刻は、欅の木を削り出し、茶や酢で黒く染めたあとに拭き漆の手法で仕上げたものです。黒い色のものは重く見える特性があるのですが、今回の3つの作品の中だと実は一番軽いんです。一番手前の白い作品は黒いものとほぼ同じ大きさで、ライムストーンという堆積岩の一種を削り出しています。パッと見ではわからないですが、重さは60kg近くもあり、黒のものよりも圧倒的に重い。一つのものを見ているときはそれしか見えていないけれど、別のものを見つけると、それら2つの間には関係性が生まれ、単体として見ていた時とは違う捉え方に変わってくる。もの自体が変わるわけではないけれども、見る人の捉え方はガラッと変わる。そういうことを意識して作品を制作してい ます。だから作品は2つで1セットにすることが多くて、展示の仕方も空間内でわざと離れさせて互いを配置たりします。そうすることで認識が変わる瞬間を生み出せるのです(大村)」。大村がテーマに掲げる「ものごとの関係性から生まれる意味」。2 つ以上のものごとを相対的に捉えることで、それらの関係性はもちろん、実はそれぞれ1つ1つを新しい視点から捉え直すことができてくる。大村の作品を見ているとものごとを柔軟に考えられるようになると感じるし、日常生活でこそ生かしたいものだ。さまざまな気づきを与えてくれる大村の彫刻は、まさに本連載のタイトルでもある「アート・アンド・クラフツ」と呼ぶに相応しい。
大村大悟
石川県生まれ。「道具と身体」「建物と装飾」など関係性の中に生まれるものごとの“意味”をテーマにした彫刻作品を制作している。
南貴之
アパレルブランドのグラフペーパーやフレッシュサービス、ギャラリー白紙など幅広いプロジェクトを手掛ける。代々木にオープンした角打ちスタンド「寄(よせ)」も話題になっている。
Select Takayuki Minami | Photo Masayuki Nakaya | Edit Yutaro Okamoto |