BEYONDEXX

名作ヴィンテージデニムを超える 使命のあるものづくり

上_今野が所有しているヴィンテージのリーバイス®︎519XX。裏地にブランケットがついた1stタイプのデニムジャケットで、Tバック仕様。

下_2023年上旬に発売予定のASICを使用する前のビヨンデックスのデニム生地を使用した、ネクサスセブンのデニムジャケット。写真上の1stをモチーフに、ヴィンテージのシーツを裏地に配して作られた特別な1着。

職人達から面倒くさがられても
未来に残すため諦めたくない
清大輔

ファッション業界屈指のヴィンテージウエア愛好家として知名度の高い、NEXUSVII.(ネクサスセブン)のデザイナー今野智弘。メディアで古着企画が組まれれば、その名前を見ないことがないほどヴィンテージに対しての情熱は深い。これまでにも今野はネクサスセブンのほかにも数々のブランドのディレクションやデザインを手掛けてきたが、今、精力的に活動しているブランドに“BEYONDEXX(ビヨンデックス)”がある。

「高校生の頃からヴィンテージデニムを集めてきた」という今野。コレクションの中には現在では芸術品的な価値のある貴重なリーバイス®︎のヴィンテージデニムも多い。これまでに今野が手掛けてきた様々なデニムアイテムでも、ヴィンテージデニムを忠実に再現したものやアレンジをしたものなどは数多く製作してきた。そんなデニムのアイテムを「更に深掘りし、未来に残していきたい」という思いで2013年から構想を始めたデニムに特化したブランドがビヨンデックスだ。これまでもビヨンデックスは、サカイやディオール、N.ハリウッドなどへのデニムの生地提供、デニム用の洗剤の発売をおこなってきた。上のページで紹介している新作のジャケットなど毎年のように研究や開発を続け進化をしているビヨンデックス。今回は、今野とデニム開発のため新たに手を組んだパートナーであるテキスタイルディレクターの清大輔を迎えて、ビヨンデックスが目指すデニムについて話を聞いた。

今野がコレクションしている数々のデニムウエアのごく一部。「ここにあるのは大戦モデルの前後の年代のもので、面白いディティールだったり生地のものです。ヴィンテージデニムは高校生の頃から買い集めています」。デニムジャケットは左から略称で、Carhartt“1st”、Stronghold“1st”、Carhartt“2nd”、Head Light“1st Full Button”、Cones Boss“Denim Jacket”、Bayly“大戦モデル”、Head Light“2nd”、GWG“1st Sample”、Head Light“1st Zip”
デニムを通し日本のものづくりを
今以上に底上げしていく

「デニムって、日本が世界に勝てる素材の1つだと思うんです。多くのメゾンブランドもデニムは日本で生産を行うように、今やデニム産業は日本が誇るべきストロングポイントと言えます。今はデニムブームも乗っかって盛り上がっていますが、それも一過性のものだと思っています。これから産業として継続していくことを考えると、今までの限界以上のことをやっていかないと駄目だと思っているんです。今、海外でもデニムの生産が増えてきています。そんな中で、『やっぱり日本のデニムはすごい』と思ってもらうには、今以上に生産工程において振り幅や奥行きをもっと出していくことが必要。そういうことを考えながら、元々好きなデニムをより掘り下げたいと思ってビヨンデックスを開始したんです(今野)」。

今野が目指す、デニム生地の1つの理想像にヴィンテージの中でも高価で取引される、リーバイス®︎のXX(ダブルエックス)がある。ExtraExceedを略したXXという表記がつけられたアイテムは、最高品質のデニム生地であるという証が込められている。BEYONDEXXも同じくXXが名前に含まれているが、“EXX”は“過去のXX”を表し、それを越えていくというメッセージをブランド名とした。P062に掲載しているデニムジャケットは、2023年上旬に発売予定のビヨンデックスを使用したものである。これも、勿論XXを超えることを目標に作っているため、生地の風合いや作業着としてのデニムらしい質実剛健な見た目が漂っている。

だが、今野は今、更なる高みを目指してデニム生地の開発をまた新たに始めた。次なる目標は、第二次世界大戦中、物資統制の中で簡略化されながらも頑丈に作られたヴィンテージファン垂涎のアイテム、リーバイス®︎の大戦モデルだ。「大戦モデルの魅力であり、特徴の1つに見た目の黒さや濃さがあります。まずは、その色の濃さを再現しないといけないというのが、大戦モデルを目指す上での入り方です。僕も当然濃くしたいと思い、染料や加工など工夫し続けていましたが、近いものはできても、似て非なりというか。過去のサンプルや資料を漁りながら、いろいろと仮説を立てて研究や開発をしている中で行き着いたのが、そもそもの原料の違いだったんです。当時と今とでは、大気汚染や温暖化など環境の変化もあるから原料の質が違うんじゃないかと。じゃあ、その当時の原料の問題を解決するにはどうすれば良いかと考えていた時に出会ったのが、清さんでした(今野)」。

アメリカン・シーアイランド
コットンという幻の素材

デニムの産地として名高い岡山を拠点とするテキスタイルカンパニー、“One-Any(ワン・エニー)”の代表を務める清はデニムを知り尽くしたエキスパート。会社名の説明をすると、“Anyone(誰でも)”を入れ替えた言葉。つまり、誰もやらないオンリーワンのものづくりを理念に掲げている。そんなワンエニーが開発しているデニム生地に“アメリカン・シーアイランドコットン(以下ASIC)”を使用したものがある。これこそが、今野と清が今、夢中になって理想へと近づけているデニム生地だ。

「ASICについて少し説明をさせてもらうと昔、カリブ海に浮かぶセントヴィンセント島というところで栽培していたコットンがすごく染料を良く吸い込むと評判でした。その上、繊維が長くて細く光沢も出るということで、イギリス王室の御用達となったんです。そこで、イギリス王室が1820年くらいに外に出すなということで輸出統制をかけたわけです。当時、セントヴィンセントと呼ばれていたそのコットンの評判が高かったために、困った人たちが、同じカリブ海に面したアメリカのシーアイランド地方というところに種を持って行き栽培したところ、とても似たようなものができたそうです。ですが、今度はアメリカ大陸特有の虫の被害を受けて絶滅をしてしまう。次は当時、イギリスの植民地だったインドに持って行くことになったのですが、そこでも病気に悩まされたようです。それで、インドに自生していて、病気にも強いスジャータというコットンと掛け合わせることで生まれたのが、今、高級綿として知られるスヴィンコットンです。つまり、シーアイランドコットンというのは、スヴィンコットンの親であり純血と言える幻の素材。一度は、アメリカで絶滅してしまったそのシーアイランドコットンを、シーアイランドクラブ(株)が大学の研究機関と十数年に及ぶ開発を重ねて蘇らせたのがこのASICなんです(清)」。

その話を聞いただけでも容易に理解ができる程、貴重なコットンであるASIC。世界で唯一シーアイランドクラブ(株)だけが取り扱うASICだけに、通常であればニットといったウエアに使われることが多いところ、清はデニムの素材として着目した。オリジナルデニムという言葉は巷でもよく目にするが、大体はある糸から選んで染めたり、色や濃度を選び作る程度のものが多い。原材料からこだわって作るということは簡単にできることではない。

「今のデニムの原料は、大体がカリフォルニアコットンです。あとは、良い濃度が出たり扱いやすくする為にアメリカやメキシコ、ブラジル、オーストラリアなどの原綿を混ぜ合わせて作る2つの方法があります。染め方も2パターンあり、糸をさらして真っ白にした上でロープ染色をするのと、さらさずに染める方法があります。大戦モデルのデニムを作っていた当時は、いちいち糸を染めるためにさらすなんて手間を取る訳がないはず。さらした方が色の入りはいいのですが、薬品を用いてさらすことで生地の表面にある粒々も飛んでしまいます。そういった条件の中で、最濃度をどう出すかと考えていくんですが、ASICを用いた糸はさらしていないにも関わらず、繊維が細いために色が絡みやすい。その染料が隙間を埋め尽くしていくことで、繊維が詰まり濃縮した青黒になっていったんです(清)」。

そして今野がこう続ける。「当時、シーアイランドコットンをコーンミルズ社(※1915年から2017年までリーバイス®︎に独占的にデニム生地を供給していた会社)が使っていたかは分かりませんが、ASICを使用することでかなり大戦モデルの色味に近づけられたんです。これが、形になれば100年後にも本当にビンテージになり得るものだと思っています。こういうものづくりがあと何年できるかということも、やっぱり限界があると思います。環境もどんどん縮小していったり、作業工程も簡易化されたり。そういう時代に直面している中で、今回作っているデニムは未来に向けたものづくりの1つの答えのような気がしています。自分達は、ものを作る仕事であり、ものを残す使命がある仕事だと思うので、残っていくものを作る責任というのは、常に考えていかないといけません。清さんにこの生地を初めて見せてもらった時に、これで自分達が理想とする自信作を作りたいと強く感じました(今野)」。

ワン・エニーが開発したアメリカン・シーアイランドコットンのデニム生地。ビヨンデックス用に仕立てられ、その色の濃さはまさに大戦モデルを彷彿とさせる。また、当時の生地に表れる良い意味での雑さを表現する為、あえて落ち綿を80%使用して紡がれた糸で織られたことにより表面の味のある風合いはヴィンテージデニムそのもの。リジッドの状態から、ウォッシュをかけて色落ちしたものまでを用意した生地見本。この写真のほかにも落ち綿を使用していないデニム生地や分量の変えたデニム生地などもあるが、今野との話し合いの上、ビヨンデックスで使用する予定はこの落ち綿を70%使用した生地となる。
経年変化を楽しめる
素材にこだわったデニム生地

実際に、今回新たに開発したASICのデニムに至るまで何度も開発を繰り返したという今野。試作品はこれまでに1万m以上にも及ぶという。その世に出ていない生地サンプルの一部を見せてもらったが、ぱっと見は遜色ないほどクオリティの高いデニムだ。だが、「納得いかないものは、世に出しては駄目」だと今野は言う。「ほかでもできることをうちがやる必要性を感じないんです。自分が作った服を着てくれた人が、それを見た人に『その服格好良いね」と言ってもらえるようなものを作らないと。そう考えると、パターンや構成も当然ですが、素材からこだわる必要があるんです。最悪、縫製がバラバラになってしまっても綺麗に縫い直せば成立するのが洋服だと思います。ただその時に、生地が駄目だったりするといくら縫い直したところで別の生地を当てる必要が出て同じものになっていかなかったりする。自分で作るものに関しては、素材からきちんと丁寧に作っていき、経年変化を楽しめるものにしていかないとその先大事にしてもらえないと思っています。だからこそ自分も、買った人も、次の人の手に渡ったとしても“良い”と思ってもらえるようにやりきったものづくりをしていきたい(今野)』。今野が言う、次のヘリテージになるものづくりに対して、「僕もまさに同じ考えです。未来に残っていくものというのは、博物館や美術館に展示されているモノのように、モノ自体から強烈な何かが発せられている気がします。その説明できないものを数値化するなり、解析しようとするのが我々プロなんだと思っています。マイノリティで、職人達からは面倒くさがられても、そこは諦めたくないですね(清)」と語る。

2人のデニムに対しての熱意ある話を聞いていると、その結晶たるASICを使用したビヨンデックスのデニムウエアを早く目にしたいところだが、製品化はまだ未定となっている。「貴重な生地のため、生かすも殺すも僕次第。今、考えているのは、デニムに特化した名パタンナーであるスタビライザージーンズの矢實さんにパターンを依頼し、縫製はYMファクトリーの三浦さんというヴィンテージデニム好きがこぞってリペアを依頼する方に頼むなど、その道のスペシャリストと組んでとことんこだわった1本を作っていこうと思っています(今野)」。今野や清の強い思いと日本の技術が結集し、憧れのXXを超える日はもうすぐそこまで来ている。

清大輔
デニムを主軸としたオリジナルテキスタイルの企画、販売を行うワン・エニーの代表。“捨てられないものづくり”を目指し、品質が高いだけではなくストーリーが紐付いた付加価値のあるファブリックを日々探求し続けている。

今野智弘
ビヨンデックスのディレクター、ネクサスセブンのデザイナーほか、バスケットボールクラブ“アルティーリ千葉”のクリエイティブディレクターを務めるなど活動は多岐に渡る。古着好きとして業界内でも第一人者として認知されている。

◯ BEYONDEXX
http://shop-nexus7vn.com/

Photo Tomoaki Shimoyama Interview & Text Takayasu Yamada

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