Column of Fashion meets Car 1 Fashion Photograph & Car

車を使ったファッション広告から 服と車の関連性を紐解く

服と車が補完し合い
ストーリーを語る写真が魅力的

車を用いたファッションビジュアルは無数にある。なぜ車を使って撮影をするのか、車が写真にもたらす効果とは。本誌でも多くの誌面を撮影してきた車をこよなく愛するフォトグラファー、藤森星児とともにその理由を考える。

藤森が撮影した車とファッションの作品の一部。80’Sのキッチュなムードがテーマの撮影にはピンクのフェラーリ(中央上)、NYのプロジェクトのリアルを表現するストーリーではフォードのフォーカス(中央下)、ヴィンテージカー好きな人物像を強固にするシボレーのエルカミーノ(右上、右下)など、テーマ、人物、時代に合わせ、リアリティを持った車をチョイス。説明できない車は使わない。これは藤森のポリシーだ。
ストーリーがないと
車と撮影する意味がない

「僕は写真の専門学校を卒業後、車が好きという理由で国内メーカーの広告やカタログを撮影している会社に入社したんです。僕の行っていた学校は作家志向の学校で、ファッション写真の勉強は何もしていなかったので、今メインで撮影しているようなファッションというものをそんなに知らなくて。“好きな車を撮ってお金ももらえるならいいな”と働き始めました。そこが僕のフォトグラファーとしての入り口です。その後、会社でファッション写真というものを知り、元々ファッションも好きだったこともあり、撮影してみたんです。その後、修行を積みにファッション写真の本場であるニューヨークに行きました」。そう自身の歩みを語る藤森星児。車をルーツとし、現在では本誌をはじめ、さまざまなファッション雑誌や広告で活躍するフォトグラファーだ。上に掲載したのは、そんな彼が車とともに撮影したファッションビジュアルの数々。車とファッションに精通する彼は撮影する上で、車はどのような役割を果たすものだと考えているのだろうか。「よく目にするファッション広告ってリアリティを考えず、派手さをてらったものがすごく多い。そういった写真には惹かれないです。ただのプロップ(撮影小道具)として車を使うのではなく、ともに撮影することで時代や人物をより表現できる写真がいい写真だと思っているので、僕が車を使って撮影するときは、写真にリアリティを持たせるための裏付け、という意味合いが一番強いです。被写体の生活を想起させる一つとして、人物像をより強固にするものとして、車がある。なぜその車で撮影したのか、という説明が出来ないとおかしいですし、そこはやっぱり気を遣います。特に広告は1枚の写真で表現するものなので、その中に詰め込むバックグラウンドやストーリーが厚くなれば厚いほど、多くの人たちにアピールできるものになると思いますし、そこまでを要求される時代になってきている。ただかっこいいものを作るだけじゃ足りないんです。特に今は車に対して世界的に興味が薄れてしまっているので、しっかりしたストーリーがないとそもそも車と撮影する意味がないんです」。
インパクトある写真にするために派手なボディのラグジュアリーカーをただ使うのではなく、人物やテーマにマッチしたリアリティある車と撮影した写真に惹かれる。それは我々も全く同意するところだ。洋服と車が互いに補完し合ってストーリーを語る。良い写真とはそういうものだ。

Top to Bottom
DUTCH MAGAZINE #38
(Photographer’s Own)
藤森がこれまで目にした車を使ったファッションビジュアルの中で、最もセクシーだと感じたという2002年のDUTCH MAGAZINEのカバー。「シトロエンのDSの前にモデルが立った瞬間をアレックス・ケーレーが撮影しているんですが、これを超えるセクシーな写真は見たことない。シトロエン DSをクラシックカーとして捉えず、むしろフューチャリスティックにすら見える。車と女性とドレスのムードがマッチしていて綺麗だなって未だに思います」。
VINCENT GALLO 『Live, Love, Drive』
(Editor’s Own)
ファッション広告と呼んでも良いと藤森が語るのが、1990年代にヴィンセント・ギャロを起用したトヨタのセリカの広告。これは当時、写真集も発売された。「本人が撮影しているんですが、カッコよかった。当時彼は映画『バッファロー’66』と手がけた頃でとても人気があったし、ビジュアルにカルチャーが感じられた。車を35mmのフィルムでラフに撮ってるからすごくリアルだけど、オシャレで。彼を起用したトヨタの思い切りの良さも素晴らしいです」。
歴史をレガシーとして、
アップデートする

ファッションと車には見た目の美しいデザインや快適さを追求した機能性など、さまざまな共通点があるが、2つのカルチャーを愛し、仕事としている藤森にとって、その2つにはどんな共通点があると感じているのだろうか。
「車も時代ごとにモデルチェンジを重ねますが、その車やメーカーにとってのヘリテージたる部分はモデルチェンジを行っても残していますよね。洋服、ファッションブランドも然りで、アーカイブから今の時代にオマージュを入れつつ新しいものを生み出す、という手法はよく取られています。積み重ねた歴史をレガシーとして、アップデートする。そこが共通しているのかなと思います。例えばテスラと撮影した広告って一回も見たことないですよね。それはカルチャーやバックグラウンドがまだ弱いからだと思うんです。暮らしと繋がりきれていないから、情緒がまだない。でもあと20年くらい経ったらテスラの初期モデルが“電気自動車の始まり”を感じさせるものとして、使われるかもしれないですね」。バックボーンを背負って、存在するものは強い。それはブランドも車も写真も同じなのだ。

ここまではファッション側の視点からインタビューを行ってきたが、では車側の視点からは藤森はどのようなことを感じているのだろうか。
「車の広告って“このプレスラインを出してほしい”など、要望が多いんです。アングルもデザイナーが決めることもあるくらい。その車の造形の美しさがわかっていないといけないんですよね。それがそのまま車の魅力だとは思うんですが、車の広告撮影を行う会社にいた時から、“人物と撮影するなら、もっとファッションアプローチのあるものがあったら面白いのにな”、と思っていました」。
そんな藤森は今後車を使ってどんな写真を撮りたいのだろうか。最後にそんな問いを投げかけてみた。
「テーマや人物像によって、変わるのでイメージが難しいですが、車全般で考えると僕はコンセプトカー(一般発売される前の展示用の車。プロトタイプ)が好きなんです。速さ、機動性、燃費、居住性、価格、耐久性など、そういういろんな部分の作り手の考えが見える。その味付けの違いに面白みを感じますし、作り手たちの夢が詰まっていると感じます。でもそれは洋服も同じ。人間が一生懸命知恵を絞って、乗る人や着る人のことを考えて作る。それが形として見えてくる。だから惹かれるのかもしれないです」。

いくらテクノロジーが発達しても、ファッションも車も人間が作るもの。その根底には人の想いがある。そして表現する上で大切なのはストーリーとバックボーン。写真をテーマにした藤森との会話で、大切なものを改めて感じた。

藤森星児が選ぶ車を使ったファッション広告

藤森が特に印象深いブランドの広告について紹介してもらった。それぞれの広告について語られるそれぞれのストーリーに注目し、気になったビジュアルを自身でチェックしてみてほしい。

1.CELINE (S/S 2015 & RESORT 2015)
車とモデルでつないだ説得力あるストーリー

「2015年の春夏コレクションで、セリーヌはユルゲン・テラーをフォトグラファーに起用し、当時80歳の作家のジョーン・ディディオンのポートレートをキャンペーンビジュアルにしました。続いて2015年のリゾートコレクションで、ダリア・ウェーボウィをモデルに車の中で彼女が座っている写真を広告にして展開したんですが、それを見た瞬間、衝撃が走りました。それはリゾートコレクションの写真が、1968年にジョーン・ディディオンが彼女が買ったばかりの68年式のシボレー コルベット スティングレーとともに撮影された写真のオマージュではないかと思ったから。ジョーン・ディディオンと車というキーワードですべてが繋がったと思いましたし、そこに当時のクリエイティブ・ディレクター、フィービー・ファイロのフィロソフィーを見た気がしました。そもそもジョーン・ディディオンという女性は、ヴォーグにも寄稿するなど、ファッションとも近い存在でありながら、当時のカウンターカルチャーのはじまりと言われた作家の一人。フィービーもおそらく多大なる影響を受けていたんじゃないでしょうか。年を重ねた作家をモデルとして広告に起用したのち、オマージュと思われる写真を公開する。それを繋いだのが、車とファッションですよね。この幾重にも重なったストーリーは、本当に説得力があるし、深みがある。当時フィービーがやっていた自立した女性が美しく着られる洋服を作るということだって、ある意味ファッション界のカウンターカルチャーだったと思いますし、ジョーン・ディディオンと繋がるものがある。写真としてはもちろん、その裏のストーリーにまで一貫した美意識が見られるいいアドバタイジングです」。

2.CASABLANCA (A/W 2023-24)
車を通してリアルな街の雰囲気を表現

「モロッコのムードが表現されたカサブランカのビジュアルで使われているメルセデス・ベンツ・W123は、世界で一番売れたメルセデスだと思います。いまだにモロッコに行くと本当にタクシーとしてたくさん走っている光景が見られますから。車を通してそんなリアルな街の雰囲気が表現されたいい広告ですね。“きっとこの街にはこんな車がいっぱい走っているんだろうな”と想像できる。W123はここ数年、さまざまなビジュアルに登場することも多いので、今の若い世代の人にも通じるデザインなのかな、とも思います」。

3.BLUMARINE (F/W 2022-23)
キッチュな女性像をファッションとして成立させる

「ピンク色の服を着たモデルの背後には、プールに沈められたピンク色の車。ペトラ・コリンズが撮影したブルマリンの広告もいいですね。キッチュな女性像をデフォルメしつつも、ギリギリのラインで安っぽくならないようにファッションとして成り立たせている。そのミックスの仕方がとても上手なので、若い層にも響くのではないでしょうか。車=富に対する皮肉が込められているのもいいですね。綺麗なモデルが高級車を背景に綺麗な服を着たビジュアルなんておもしろくないですから」。

4.RAG&BONE (F/W 2015-16)
車広告史上最大のインパクト

「ポルシェの911カレラにコンクリートを落として潰してしまうという2015年-16年のラグ&ボーンの秋冬コレクションのビジュアルは本当にビックリしましたよね。映像も公開されましたが、モデルも本当にビックリしてましたもんね。車広告史上最大のインパクト。予算いくらかけているんだろう。富の象徴である高級車を壊してしまうアイロニーが強烈に表現されたビジュアルです。こんなメッセージある広告には反応してしまいますね」。

5.HONDA CIVIC
巨匠はやっぱり巨匠だと思い知らされた

「ファッションブランドの広告ではないんですが、2017年に森山大道さんが撮影したホンダのシビックの広告もかっこよかった。赤い背景と赤のシビックがロックでファッショナブルなんです。当時はニューヨークに住んでいたんですが、日本に里帰りで戻ったときの地下鉄の駅でこの広告を見て。シンプルだけど、インパクトがあって、とんでもなく衝撃的でした。巨匠はやっぱり巨匠だな、というのを思い知らされましたね」。

Edit & Text Satoru Komura

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