Goldwin 0 Event Interview

物語をつくる4者の証言

2022秋冬シーズンに発表され、今季で2シーズン目を迎えるゴールドウイン ゼロ。最先端の技術を踏襲したスポーツウエアを長年手掛けてきた日本を代表するゴールドウイン社による新しいプラットフォームとして、昨年末の立ち上がりは業界でも多くの注目を集めた。コアなファッション好きからも熱意を向けられた理由には、服が持つユニークなシルエットや機能面だけではなく、このプラットフォームに世界中のクリエイターが多数関わっているということも多いにある。

クリエイティブディレクションにはイギリスのデザインデュオ“OK-RM”が行い、洋服のデザインには、布帛の服を“ジャン=リュック・アンブリッジ”が、ニットを“ジュリア・ロドヴィッチ”が担当。写真は気鋭フォトグラファーの“ダニエル・シェア”が手掛けるなどそれぞれがコアなファッション、クリエイティブシーンから注目を集めている人物が多く関わって昨年ゴールドウイン ゼロが始動。そんな2シーズン目の2023春夏期のコレクションが3月末に発売され、それを記念したイベントを開催した。OK-RMのオリヴァー・ナイト、ローリー・マクグラスも来日し会場のディレクションを手掛けた空間の中、洋服の展示とアーティストの小林七生による音楽プロジェクトFATHERのライブが行われた。そのイベントレポートとともに、イベントに関わった4人のクリエイターに話を聞いた。
まずは、OK-RMから始める。

Interview with OK-RM (Creative Director)


― 自然の調和をコンセプトの1つに掲げるゴールドウイン ゼロですが、OK-RMの2人にとって自然とは普段からどのように関わっていますか?

「僕が住んでいるところはロンドンにある森の側です。普段から近所の森の中をランニングやウォーキングをすることが多い。ロンドンの街と森、この2つの対比は僕の生活の中でも大切にしていることです。森というのは確かに自然ですが、人間という存在自体も自然そのものと言えます。都市にいたとしても自分の中でどうやっていいバランスを維持するかというのがウィルビーイングの考え方としても一番大事だと思う(ローリー)」。

「家で家庭菜園が僕にとっての自然との繋がりです。トマトやポテト、グリーンピース、ニンジン、ナスなど色々と育てています。出張が多かったりと忙しい日々なので、そうやって生活の中に土と自分の繋がりを作っているんです(オリヴァー)」。

― デザインで2人が大切にしていることは?

「審美性を最初から求めてしまうと美しさに引っ張られてしまい、スタイルがなくなってしまう。アイディアを追求していくと自ずとそれが審美性に繋がってくるから、審美性よりもアイディアの方が大事であると考えています。そのアイディアというのはコンセプトからくるのです。(ローリー)」。

「そして、そのコンセプトというのは哲学から来る。哲学は信念から来るから、信念を持つことが大切です。そういったアイディアを皆さんに伝えていくことが私たちのデザインであると思います(オリヴァー)」。

― OK-RMのデザインは書籍を見ても今回のイベントの空間を見ても「OK-RMらしさ」があります。タイポグラフィや余白のようなものに一貫性を感じます。2人にとって良いデザインとはなんですか?

「額縁と絵の関係あるように、構造と演出という関係がデザインには存在します。今回のイベントの会場を手掛ける時や本を作る時でもそうですが、色々なアイディアがありそれを表現するためにタイポグラフィや間だったりの要素を取り入れて作っていきます。アイディアを表現するための要素に自分らしさがあるために、僕たちの作品を見た人が皆、一貫性を感じるんじゃないかな(ローリー)」。

― ゴールドウイン ゼロのビジュアルやムービーは服があまり写っていなかったり、深く複雑な内容だったりと、一般的なブランドとは一線を画しています。今回のようなクライアントワークを行う上でOK-RMが意識していることはなんですか?

「クライアント毎に全く違う仕事があるわけですが、自分たちがやりたいことはクライアントやプロジェクトが違ったとしても存在します。自分たちらしい視点を大切にしています(オリヴァー)」。

「『ほかとは違うことをやりたい』とゴールドウインから言われたんです。だからこそ、ゴールドウイン ゼロでは実験的な表現をしています。ゴールドウイン ゼロは、恐らくこれまでの経験の中でも最も相乗効果が高く野心的なプロジェクトです。私たちの広範囲に及ぶ影響力と様々なクリエイターたちとのパートナーシップを結びつける機会であり、実験場でもあります。誇大広告の必要もなく、持続可能なペースで衣服やゴールドウイン ゼロの姿勢をこれからも育んでいきます。このプロジェクトにおける私たちの役割は、“クリエイティブ ディレクター”と定義されるかもしれませんが、この言葉は形がなく広範なものであると思っています。私たちの役割は、複雑なパーツから意味を生成して合成すること。ゴールドウイン ゼロの服は、サステイナブルな素材、革新的な技術などそれぞれの衣服が多様性を持っています。1着の服を作るのに多くの人の心や手、感情が関わっていることを意識し、舞台芸術や建築、音楽、言語を含むエコシステムを構築することを意図しています。つまり、ゴールドウイン ゼロはカテゴリーやレーベル、国境を越えた知識の共有に根本的に取り組んでいるのです(ローリー)」。

― 今回のイベントについてもお話を聞かせてください。会場の構成や、小林七生さんのライブであったりどういう風に構築していきましたか。

「ゴールドウイン ゼロでは常にコラボレーションがテーマになっていて、今回は友達であったり、繋がりのある人たちでビジュアル撮影を行ってきました。撮影は、群馬にある水上温泉の近くにある森で行っています。今回は“チャンス エン カウンターズ”というテーマなんですが、偶然の巡り合いを活かしていくことを大切に撮影していきました。自然の中で良いなと思ったものを撮影していき、後からどういうふうに表現をするかを考えていったという実験的な取り組みでした(ローリー)」。

イベントでは、FATHERの演奏に合わせて、背後に設置された木のようなモニターの映像が反応して動いていた。これは事前に音に合わせて映像が変化するようプログラミングしたことで、製作者でさえもコントロールができないものとなる。

このことが、今回のテーマである“チャンス エン カウンターズ (偶然)”とも繋がる表現となっていた。今回のイベントでのライブやゴールドウイン ゼロの映像〈enquiry #4〉でも音楽を手がけた小林は、緻密で生命的ともいえる力強い刺繍の作品を手掛ける活動とともに音の表現も行う作家だ。ゴールドウインゼロのマーケティングディレクターを務める小池夏子とかねてから友人であった繋がりもあり、小林の曲を聴いたOK-RMによる切望もあって今回のコラボレーションに至ったという。作家活動のこと、今回のイベントについて小林に話を聞いた。

Interview with Nanao Kobayashi (Artist)

― 小林さんの作品は刺繍と音楽という2つの表現を行なっています。作品を制作する時の感情や小林さんのインスピレーション源となるものはどのようなものでしょうか?

「演奏も制作も、取り掛かる時に感情というものはまず最初に取り除くことを試みます。自分という存在を超えたところで自由になるということに私は関心があるからです。外から何かインスピレーションのようなものを得て生み出すのではなく、内にある意識に集中をして、自分自身が源であると認識をする事が大切だと思っています。内に意識を向けることで、自然と外にもダイレクトに繋がることができると思うのです。そうなると、私という存在は消滅していますので、あらゆる情報のようなものが宇宙から流れてくる状態になるんです。その体験を混じり気なく共有することが役目だと思っているので、パフォーマンスや表現というよりも、作業的な感覚に近い気がします。刺繍も、音楽も手法が違うだけで私の中では同じです(小林)」。

― 今回のイベントでもそうですが、演奏中は自ら制作しているマスクを着けてますね。マスクを着けることで、どのような変化が起きるのでしょうか?

「マスクは衣装ではなく装置です。マスクを着けることで自分にとっても他者にとっても媒介者になるという意味があります。演奏中は自分が筒のようになり膨大な情報が通過することもあります。しかし、それはそれで怖いという感情が生まれることもあるので、もちろんブレーキをかけてしまうこともあります。ブレーキをかけるとやはり身体の中に何かが引っ掛かり残るような感覚で、演奏後にものすごく疲れてしまいます。そう言った意味でもマスクというのは自ら筒の状態を正しく迎え入れることにより、ある意味マスクが私を守ってくれてることにもなる。そんな機能を持つものな気がします。なので、自分で作るということにも大きな意味があります (小林)」。

― ゴールドウイン ゼロから話をもらった時はどう感じましたか?

「いつも自分に起こることは世の縮図と捉えているのですが、私のようにまだ誰も知らないような独立的な存在に声がかかるということは、世の中でそういったものを求め始めているのかなと感じました」。

― ゴールドウイン ゼロのイベントということで、何か特別意識したことはありますか?

「最初にOK-RMが、『特にクライアントワークと思って仕事をしなくて良いよ』って言ってくれたんです。なので、いつも通り好きなようにやらせてもらいました。ただ、自然というテーマは今ファッションでは取り入れがちなテーマだと思っていて、そういう言葉をいくらコンセプトに設けても皮肉なことに本質からは離れてしまう気もしていて、大切なのはやはりリアリティであって、頭で考えることではなく実感すること。わたしたち人間にとっての一番身近な自然である自分自身と繋がることや、今ここに在るということを実感するような、ライブという一度しかない時間を皆さんと共有出来たらいいなと思っていました。(小林)」。

― ライブを終えて演奏や会場の様子など感想はありますか?

「会場はとても不思議な空間でした。ガラス張りで開放的な様で一切音が響きませんでした。音が全く抜けないので正直身体的な負荷はありましたが、ある種の馬力を最後に出すことになったのでそういうことも含めてその場でしか起きないこととしてとても楽しむことができました。(小林)」。

この時のライブ映像は近日公開予定のため、ゴールドウイン ゼロのウェブからチェックをして欲しい。刺繍の作品も10月に京都で個展を開催するので、今年は小林の唯一無二な世界観を体感できる一年となっている。
最後に、ゴールドウイン ゼロでマーケティングディレクターを担当し、国内外のクリエイターを一同に束ねる小池夏子にも話を聞いた。ブランドではなく、実験的なプラットフォームというゴールドウイン ゼロの今シーズンついて。

Interview with Natsuko Koike (Marketing Director)

― 小池さんはゴールドウイン ゼロの中ではどのようなポジションですか?

「マーケティングディレクターという肩書きではありますが、OK-RMと一緒に色々なコンセプトを考えたり、様々なクリエイターにお声掛けしたりと本当に色々な事をやっています(小池)」。

― 国内外のクリエイターをまとめるのはとても大変なことのように感じますが、皆さんとのコミュニケーションはどういう風にとっていますか?

「小林さんであれば、音楽を持ってこのプロジェクトに参加し、デザイナーのジャンリュックやジュリアは洋服のデザインを持ってこのプロジェクトに参加しています。それぞれが自分のスキルと経験を持ってこのプラットフォームに持ってきてくれるのですが、単に自分だけの分野ではないところまで一緒になって考えてくれるんです。自分の仕事の領域を超えたアイディアを絶え間なく皆さんが持ってきてくれるので、私はその指揮者のような感じで一つにしていけたらという思いでやっています(小池)」。

― フォトグラファーのダニエル・シェアが手掛けるゴールドウイン ゼロのビジュアルはいつも先鋭的ですが、特に今回のEnquiry #4は斬新でした。

「今回はOK-RMやダニエル・シェアたちみんなで群馬の山に3日間こもって楽しんで撮影をしました。ダニエル・シェアはファッションフォトグラフィーを多く撮影している写真家ですが、そういう方がアシスタントもつけずに自分で三脚を担いで自然の中で自分の作品撮りのように楽しんで撮影をする様子は見ていて嬉しかったです。写真をまとめた冊子も作っていますが、販売していないにも関わらず世界中から『どこで買えますか?』という問い合わせがあったんです。洋服はほとんど写っていないのですが、『観た人が良い写真だな』、『美しいデザインだな』と思ってもらえるものこそ私たちが作るものであるべきだと思っています(小池)」。

― 今回のEnquiry #4はゴールドウイン ゼロにとって2シーズン目のコレクションですが、小池さんにとってどういったシーズンになりましたか?

「ファーストシーズンはそれだけで注目されるものですが、2シーズン目以降は決してそうではありません。なので、これからどう表現していくかというのはとても大事です。継続的に続けていくことでプロジェクトが持つコアの部分をより強くしていくことができるので、ゴールドウイン ゼロで大切にしている様々なコラボレーションの部分を強化していこうという考えで進んでいきました。今回の例で言うと、小林さんには店頭での音楽も作ってもらったんです。その音楽には山で撮影した自然の音も入っています。お店に来た人が服を見るだけではなく、聴こえてくる音から何かインスピレーションを受ける事ができるかもしれない。言葉で説明をしなくてもゴールドウイン ゼロを構成するものを通して何か得てもらえたら良いと思っています(小池)」。

OK-RM
ロンドンを拠点とするオリヴァー・ナイトとローリー・マクグラスの2人によるデザインデュオ。J.W.アンダーソンやヴァージル・アブロー、ヴォルフガング・ティルマンス、ヨーガン・テラーをはじめとする錚々たる人物とコラボレーションワークを行うほか、自身の出版社“InOtherWords”からは実験的で美しいデザインの書籍を多く発行している。ゴールドウイン ゼロでは、立ち上げ時からクリエイティブディレクションを行う。
@okrm_london

小林七生
独学で制作を始める。「縫う」時間と行為そのものを主軸とした作品をてがけると同時に、音楽家として活動する。「FATHER」と称するプロジェクトでは、秩序と無秩序を行き来する根源的な音楽体験を目的としたライブ・パフォーマンスを中心に国内外で発表してきた。これら二つの活動は相互作用を持ち、万物の謎を読み解き続けるために往来し続けながら展開されている。現在、東京を拠点に活動。10月には京都の老舗帯屋、誉田屋源兵衛の黒蔵で3年ぶりの個展を開催予定。
@father_info
http://www.nanaokobayashi.com/

小池夏子
ワシントンD.C.でジャーナリズム、ニューヨーク、パリ、香港でファッションビジネスを学んだ後に、UNIQLOのグローバルマーケティングチームに参加し、主にコラボレーションを担当。その後、asics、VIBRAMなどのマーケティングを担当。ゴールドウインには、Goldwin 0立ち上げのために2021年から参加し、現在に至る。

GOLDWIN 0
https://www.goldwin.co.jp/goldwin/0/enquiry-4/

Photo Yuto Kudo

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