Product for Feelin Good by Yataro Matsuura
松浦弥太郎が語る、毎日座って しあわせを感じられる椅子
Poul Kjærholm “PK15”
Hiro Tonomura “Knotting”
「日々の暮らしの中で、自分専用の椅子があるということはすごく豊かなことだと思います。疲れて帰ってきても、椅子に座れば落ち着くし、仕事にも影響を与えてくれる。僕も椅子が好きだから、これまでにもいろいろな椅子を買って使ってきました。大切に愛用してきた椅子は、後になって見返した時に「この椅子に座って、暮らしや仕事をしたり、ものごとを考えてきたんだな」って過去を振り返る象徴になるものです。飾るものではなく、毎日座ってしあわせを感じるもの。友だちみたいな存在です。僕は比較的、デンマークの椅子が自分の暮らしにはフィットするかな、と思っていますが、椅子選びはなかなか難しいですよね。美しくて、座り心地が良くて、毎日飽きずに座っていられる椅子ってありそうでないんです。憧れで椅子を買ってみた経験は、いくらでもあるのですが、『人生を通してこの椅子に座って生きていこう』と思える椅子はなかなか少ないのです。
そんな中でも僕が、10年ほど毎日のように使っているのが、ポール・ケアホルムのPK15という椅子です。以前から、ケアホルムのデザインした家具が好きで集めています。ケアホルムといえば、PK22などのスチールとレザーを用いたシンプルな造形美の家具が知られていることでしょう。実は、ケアホルムの家具の魅力は、レザーそのものだと思うのです。今でも、ケアホルムの家具はフリッツ・ハンセンから復刻したものを現行品で買えますが、ヴィンテージのものは本当にレザーの品質が素晴らしい。ケアホルムの家具を買うということは
最高級のレザーを買うということ。コレクターからするとそんな感覚です。
そんなケアホルムの家具の中でも今回紹介するPK15という椅子は、彼が最後にデザインした、曲木の技術を駆使して作ったもの。70年代に250脚限定で作られていたとても珍しい椅子なんです。家具が好きな人たちからするとPK15は幻の椅子と言われていて、長年探し続けて10年前にやっと手に入れた一脚です。ケアホルムの椅子は、ソファーにしてもそうなんですが、どの角度から見ても非常に美しいというのが特徴。普段使いをしていますがとても座りやすく、曲木によって作られたカーブが身体に馴染んで一体感を感じる座り心地。素晴らしい椅子だなと感じながら日々愛用しています。ケアホルムは、もともと木工の家具から始まっているらしく、15歳で職人のもとに弟子入りをしたようです。つまり、木の椅子作りから始まって、木の椅子で終わらせた。そういう意味でも、とてもストーリーがある一脚だと思います。
これからもこの椅子を使い続けたいので、座面の劣化にはとても気を遣っています。この椅子に合う、温かみのあるシートは何が良いだろうと考えたところ、見つけ出した答えが外村ひろさんが作るノッティングでした。日本の民藝運動に大きく貢献し、倉敷民藝館を設立した外村吉之介さんという方がいるのですが、その方の義娘にあたるのが、外村ひろさんです。ノッティングというのは、木綿の経糸に細いウールの束の糸を結びつけて色々な模様を織り上げていく手織りの技法。外村ひろさんが作るノッティングとは随分前に出会ったのですが、はじめて腰をおろした時、まるで草むらに座った時のような暖かさと柔らかさのある座り心地に感動したのを覚えています。このページで紹介をしているノッティングは、僕が色や図柄を指定して外村さんに作ってもらったもの。今では、外村さんのオーダーリストにも正式に入れていただいている、通称“松浦図版”と言われるものです。ノッティングは、外村さんのほかにも多くの工人が作っていて、ほかのものを試したこともあるのですが、外村さんのノッティングが一番でした。毛の長さが全然違って、長くてふわふわして心地良い。それにデザインもいろいろな文化がミックスされていて、モダンなものととても相性が良い。なので、外村さんのノッティングを使い続けています。あるとき、曲木と竹で編んだPK15と外村さんのノッティングは、すごく相性がいいなと気づきました。手作業によって作られた椅子敷きと、原点回帰的なケアホルムの木の椅子。僕は、PK15と外村さんのノッティングに座れることが、とてもいま幸せな気持ちになれるのです」。
Photo Kengo Shimizu | Interview & Text Takayasu Yamada |