Unique Watch Store 01 Wolf&Wolff
石崎孝之が仕掛ける 物語に溢れた時計店
ユニークな出会いのある時計店
時計の選び方や着け方に個性があるように、時計店にもその店ならではの美学がある。ヴィンテージウォッチとひと口に言っても、ドレスやミリタリー、スポーツなどジャンルは多様だ。選択肢の広い時計の世界で、オリジナリティある専門性と審美眼を持ち、新たな価値観を提案する個性豊かな店を訪ねた。
パティナの美しさに魅せられて
独自のセレクトで人気を集めるWolf&Wolffの石崎孝之が、同名を掲げたヴィンテージウォッチ専門店「Wolf&Wolff」をオープンさせた。彼がこれまで手掛けてきたセレクトアイテムやお店は例外なくユニークで、常にコアなファンから注目を浴びてきたことはSilverのバックナンバーでも紹介してきたところ。そんな石崎が次に仕掛けたのはヴィンテージウォッチ専門店だというから気にならないわけがない。完全予約制で住所非公開のお店に訪れるべく向かったのは、東京スカイツリーを麓から見上げる立地のとある住宅街の一角。道に迷ったのかと不安になりながら向かうと、石崎が店前で出迎えてくれた。「洋服のセレクトショップをしていた頃に、お客さんが私の着けている腕時計に興味を持ってくれることが多く、洋服と並行して腕時計も買い付けるようになりました。気づいたら腕時計の方が割合が多くなり、専門店を開くことにしました。扱うのはヴィンテージのロレックスが多いですが、カルティエやブルガリなどブランドは問わず、おもしろいと感じる個体を並べています。最近はパティナ(経年変化)が美しい個体に力を入れています。作られてから何十年と時が経つ中で刻まれたオーナーの癖や傷、色褪せの裏側にあるストーリーこそがおもしろいんです。ヴィンテージウォッチ市場の一般的な価値は“いかに新品状態に近いか”ですが、僕の価値観は真逆ですね」。
Right Top 石崎が取材時に着けていたのは、1970年代のカルティエのミニタンク アロンジェ。オーバーサイズシャツの腕元から覗く極小サイズが逆に存在感を発揮する。鮮やかなグリーンのリザードレザーベルトを合わせているのも石崎らしい。
Bottom Left 店頭には並んでいない腕時計はポラロイド写真でリストアップされている。デジタルカメラが登場する以前の時代で主流な方法だったとのこと。
Bottom Right お客さんが購入した腕時計に合わせてベルトのオーダーメイドも提案する石崎。レザーの種類、色、艶の有無、ステッチの色と太さ、ピッチ幅など、腕時計の個性とのマッチングをコーディネートのようにスタイリングしてくれるのは、ファッションのプロである石崎ならでは。写真はレザーアーティストであり彫金師の本池大介と生み出したベルトと尾錠。作家とのコラボレーションもWolf&Wolffの強みである。
ストーリーにこそ価値がある
美しいパティナやオリジナルのストーリーが宿ったヴィンテージウォッチを求め、石崎は世界中へ買い付けの旅に出る。その道中や買い付けの様子はコラムとしてお店のウェブページで公開されており、ぜひ読んでみてほしい。ストーリーにここまで重きを置くのも石崎ならではだ。「ファッション的な考え方だと思いますが、発売された当時の50年代や60年代にはどのような人たちが身に着けていたかや、あの映画でどの俳優が着けていたなど、モデルが持つ歴史や逸話に惹かれるんです。ものを欲しくなる衝動の根源はそこにあると僕は思いますし、その価値観をヴィンテージウォッチ界に伝えたいんです。腕時計が資産価値としてみられる傾向にありますが、私は個体が持っているストーリーに惹かれます。美術品のようにもともと置かれていた棚に戻してあげるような感覚で提案しています」。市場価値ではなく、個体が持つストーリーやパティナに美しさを見出す。世界中から集めてきたストーリー豊かなヴィンテージウォッチの語り部として、東東京の下町の一角で石崎は今日もひっそりと店を開いている。バックカバーの写真にある言葉は、ヴィンテージウォッチへの思いを綴った石崎のステートメントである。
Wolf&Wolff
住所非公開(完全予約制)
info@wolfandwolff.com
Photo Naoto Usami | Interview & Text Yutaro Okamoto |