A Die Where Every Side is a Winner

気鋭のバンド「賽」が描く 日常を彩る新たな音楽の形

近年、海外のレコードコレクターたちの間で「和ジャズ」と呼ばれる日本のジャズが注目を集めている。渡辺貞夫、森山威男、福居良ら先駆者たちの探求により独自の進化を遂げ、世界的な評価を確立している。本場アメリカとは異なるアイデンティティを追求してきた日本において、キーボード、ベース、ドラム、トランペットから構成されるジャズ・カルテット「賽(さい)」は、新たな和ジャズの形にとどまらず、音楽本来の自由なサウンドを表現している。
4枚目となる最新アルバム『Lims』のリリースとワンマンライブを終えた彼らに取材を行った。異なるバックグラウンドを持つ4つの個性は、どのようにして1つに融け合っているのか。結成の経緯から、それぞれが抱く音楽への探求心、そしてバンド名に直結する彼らの自由な哲学まで、その核心に迫った。

L to R
松浦千昇 (Dr)、櫻打泰平 (Key)、岩見継吾 (Wb)、佐瀬悠輔 (Tp)

楽曲の裏にある
ストーリーを表現する

― まずは最新アルバム『Lims (リムス)』に込められた思いや、表現された音楽性について教えてください。

泰平 (key) 賽の作品はインストなので、客演(フィーチャリング)がない限り言葉や歌はないんですが、全曲に必ずストーリーや世界観を作っています。ストーリーがないと聴けない曲にはなってほしくはないから公表は今の所していないのですが、そのストーリーに沿って、みんなが自由にやっていったらまた新しい作品が生まれたという感覚ですね。世界には素晴らしい表現力を持った人たちが本当にたくさんいて、そういうライブを体感すると「ヤバすぎて笑っちゃう」ことがあるじゃないですか。真剣に音楽に向き合って技術を磨き続けている仲の良いこの4人が本気でやったら、若干ではありますがその「ヤバすぎて笑える」という片鱗が、自然と出始めた気がしています。バンドがまた一つ熟成した要素が出てきているように感じています。

佐瀬 (tp) この楽器編成だったら、ジャズっぽくなるか、もしくはクラブっぽい感じになることが多いと思うのですが、ほかにあんまり聴いたことないようなサウンドに仕上がっていると思ってます。徐々にバンドの特徴的な色というか、賽固有の音ができてきたという感じはしますね。

泰平 1作目では一つの作品としてまとめようとしていたのですが、作品を重ねるごとにバンドの個性が自然に出始めていますね。

千昇 (ds) 全員違う言語で話しているけど、全員の言語が理解できるから相手の言葉に無理に合わせる必要がないんです。最初は探り合っていましたが、今は理解し合えています。

佐瀬 言葉を発しなくても伝わる雰囲気がありますね。あと、ここまで仲の良いバンドはあまりないかもしれない。

泰平 音のコミュニケーションもぶっちぎりで早いです。あと仲の良さで言うと、6〜7時間ぐらい移動もあっという間に感じるくらい居心地が良い。会話の中身がゼロの可能性も高いんですけどね(笑)。

佐瀬 やっぱ仲の良さって、良い意味でも悪い意味でも音楽にすごい反映されるので。それが本当にいい方向に全振りしてると感じます。

― 賽が結成されるまでのストーリーを教えてください。

泰平  2020年の年末、コロナ禍に、僕がやっているSuchmos(サチモス)の活動休止が決まり、1人の人間として何をやっていくのか悩んでいました。そんな時にとあるバーで「ピアノでライブやってみなよ」とマスターに言っていただいたのがきっかけです。その時に1回だけ鎌倉でセッションしたことのある岩見さんと一緒にやってみたいと思って電話して、快諾してもらいました。2人でライブをした後、もう1人半端ではない歌を歌ってくれるやつが必要だなと思って、大学卒業以来7年ぶりに佐瀬に電話をかけたんです。最初は間違い電話かと思われて取ってもらえなかったんですが(笑)。
それから2年間はドラムレスでやっていたんです。というのも一時期のビルボードチャート、特にトラップミュージックが流行った時にビートとラップ以外は薄いというかシンプルな音楽が多いと個人的に感じてて。特にハーモニー、メロディ、といった部分ですね。その部分だけでも、作り込んでライブアレンジを組み上げることができたら人は踊れるし感動できるっていうカウンターを打ちたかったんです。そしたらある時にふと「ドラムってやっぱりめちゃくちゃかっこいいわ。。」と改めて確信しまして、噂を聞いていた千昇に声をかけました。

― 泰平さんから誘われた時のことを教えてください。

岩見 (Ba)  僕の場合は鎌倉で最初にセッションした時に気が合うなと思ったんです。その時は飲んだり会話をしたりしたわけではなかったんですが、ただ演奏をしただけでバイブスの近さを感じました。

佐瀬  僕は7年ぶりの着信だったので、最初は絶対変なお願いをされると思って出なかったんです(笑)。でもその後再会してめちゃめちゃ意気投合して。最初はジャズのスタンダードをやっていて、正直「もって1年かな」と思ってたんです。でも、フェスに出るにあたってオリジナル曲を作り始めてから、すごい楽しいな、このメンバーで音楽をやっていきたいなって気持ちになって現在に至ります。

千昇  僕の場合は、共通の知人の紹介で泰平さんに会い、泰平さんとフリーセッションをして「めっちゃおもろいやん」ってなったのが最初です。何より、自分が尖っていた時代に3人体制の時の曲を聴いて「これはおもろい」と思って、むしろ「やらしてくれ」っていう気持ちになったのが大きかったですね。

櫻打泰平 (Key)
高め合う関係性

― お互いの音楽性でリスペクトしている点を教えてください。

泰平  バンド内でよく話すのですが、全員が常々上手くなり続けているというのがまず共通しています。自分の楽器の表現力や技術力など、かなり高いところに設定値を常に置き続けるタイプであるというのが一緒で。久しぶりにリハに入ったりすると、全員少しずつ進化してるんですよね。新しいものを手に入れて、それを身につけている途中だからまだ安定感はないんだけど、また変わろうとしているのをすごく感じる。

佐瀬  全員が違うジャンルの音楽を好きなのも魅力ですね。僕はずっとジャズが好きで聴いているんですが、みんなそれぞれ、僕の知らない音楽をすごく知っているわけですよ。曲作りも、みんなそれぞれが違う視点から面白いアイディアを出してくれる。そして全員が音楽に対する熱量を高く持っている。だからこそ置いていかれないように自分も頑張らないと、という気持ちにさせてくれます。

佐瀬悠輔 (Tp)
人生に刻まれた
音楽を続ける理由

― 人生の大半を音楽に費やしていらっしゃいますが、楽しさはどこにあるのかを教えていただけますでしょうか。

岩見  単純に音楽に夢中です。生活のすべてが音楽に向かっていっています。僕はとにかく演奏が好きで、演奏を通して自分を表現したいんです。単純にいうとベースをドーンと響かせたい(笑)。

泰平  岩見さんは、ウッドベースっていう大きな楽器をコントロールできる体格も技術も含め、本当にベースを弾くために生まれて来たような人だなという感じがする。たまに岩見さん自身がベースになっちゃっている時があるぐらいです。(笑)。

佐瀬  僕はトランペットを始める前にピアノを習っていたりもしたんですが、好きになれず練習もできなかったんです。ただトランペットだけは吹き続けることができて、ずっと練習したいし、四六時中どうやったら上手になれるのかを考えています。細かい理由はなしに、とにかく練習して上手になっていきたいんです。そういう意味で一番自分にフィットしているんだと思います。

千昇  割と自分も佐瀬さんの境遇に近いんですが、4歳頃からドラムをやっていて、リズム感が良かったらしく、ドラム教室で教えてもらったこともすぐに叩けるようになる子供だったみたいです。ただ才能に甘えることはなく、努力は誰よりもしてきた自負があるし、僕は練習を練習だと思っていないんです。歯磨きのようにライフスタイルの一部になっていて。そうやって続けられるものがあって、自分の感情を乗せて表現できるドラムという存在にとても感謝していますし、一生続けたいと思っています。

泰平  音楽を続ける理由は一つではないんですが、まずは楽しいからですかね。楽しいから。2歳からヤマハに通って、泣きながら基礎練習をやっていたらしくて。ただその記憶はないんです。それくらい自然に始めていました。高校の時に音楽の道を選んで上京して、仲間に巡り合って音楽で飯が食えるようになった。いつも何かが始まる感覚なんです。目標にしていたワンマンライブが終わった時や、今回のように新譜がリリースされた時。それぞれが終着点になって、そこからまた新しいスタートになっていくんです。それはまだまだ足りないという焦燥感でもあるし、次をやりたいという欲望の証でもある。でもその中に、このまま続けていくことが一番の幸せだという基盤もあって。今でも悔しくて半べそかきながら練習している時もあるんですが、それも楽しいんですよね。何かが始まってばかりで終わりがない。多分、終わって満足したらすぐに辞めてしまうと思うんです。だけど終わりがない。今回の人生の中心にあって、どうやら俺は音楽はどうせ死ぬまでずっとやり続けるわって諦めに近い開き直りというか、そういう風に自分で気づいちゃった時がありました。

岩見継吾 (Wb)
“賽”に込められた意味

― 賽というバンド名に込められた意味を教えてください。

泰平  賽子(サイコロ)からです。人生ってサイコロみたいなものじゃないですか。1をハズレとするのか、6を当たりとするのかも見方ひとつで変わっていく。人生って見方次第で大半のものが変わると思うんですよね。今、生きれていることが何よりも幸せで足りないものはないからこそ未来を考えていける。このバンドの裏テーマに「自由帳」というのがあって、曲に込めたストーリーをどこでどんな状況でどうやって表現するかが各々に委ねられているんです。

千昇  このバンドの良いところはそこだと思っていて。全員が自分の乗り物を持っているようなものです。一つの乗り物に乗ってしまうと先導者は一人になってしまいます。このバンドはそれぞれが違う乗り物に乗っているので、進み方も選ぶ道もなにもかも違う。集合場所さえ合っていればいい。もし別の場所に辿り着いたとしても良さとして昇華していける。その感覚が自由帳に近いと思っています。

松浦千昇 (Dr)
賽子(サイコロ)のように
楽しむライブ

― 最後の質問になります。今回のワンマンライブに向けての意気込みやお客様にどのように楽しんでほしいか教えてください

泰平  「僕たちは僕たちで楽しむので、ご自由にどうぞ」という気持ちです。踊りまくる人も、腕を組んで目を瞑って聴き入っている人もいる。いつも通り俺たちは4人で楽しむから、それぞれの楽しみ方を見つけてほしいです。

千昇  やっぱりライブは一番感情が乗るので、リハでどれだけ決めても、本番になってお客さんが加わればテンションも変わる。決め切らないのがいいなと思っているんです。いつも最初はリズム隊2人(岩見、千昇)が先に進んでいってしまいますが(笑)。

岩見  ライブはそのときだけのものじゃないですか。その瞬間を楽しむのが一番だと思います。

泰平  サイコロは振らないと何がでるかわからないじゃないですか。まずは誰が振るのか。どういう目が出るのか。1が出る時も5が出る時もある。でも、どの目が出ても見方次第でそれが当たりなんです。

千昇  見ているお客さんにもそれを楽しんでほしいし、アルバムを聴き込んでライブに来たら、違った要素が展開されていく。そういうライブでしか起き得ないマジックを目の当たりにしてほしいです。そのマジックを僕らも楽しみにしています。

終始お互いについて、そして音楽について少年のように楽しそうに話す賽のメンバー。彼らの真っ白な五線譜は自由で、それぞれが思い思いの音符を描いていく。ただ、そこには音楽へのまっすぐなひたむきさと技術があるからこそ、ジャズ、アンビエント、ハウス、ヒップホップと様々な音楽を横断しながらも一つの曲へとまとめることができるのだろう。観客を踊らせるのは、楽曲以上に、音を通して伝わる彼らの熱意にあるのだ。

Live Report

3月15日に渋谷 CLUB QUATRO(クラブ クアトロ)にて行われた賽のワンマンライブ 「SAI THE LIVE 2026」。ここではライブレポートをお届けする。

開場と同時に、フロアには幅広い年代の観客が詰めかけた。開演を待つ人々の熱気で会場内は満たされていく。

暗転したステージに静寂が訪れると、佐瀬のトランペットからライブが始まった。1曲目は「JAPAN THREE」。もともと3人体制時代にリリースされた1stアルバムの一曲目であり、ドラムの松浦が加わった現在の4人編成では初の披露となる。原曲の余韻を保ちつつも、厚みを増したアンサンブルが会場の緊張を心地よく解きほぐしていく。

高揚感を維持したまま、2曲目「SS」へ。岩見の太いベースラインがフロアに響く。リズム楽器としての土台を支えながらも、体の芯まで届く力強い音像は、まさにバンドの屋台骨といえる存在感を放っていた。

TAIHEIを中心とした軽妙なMCを挟み、前作『YELLOW』から「Heee」「Child’s Eye」「30」と続く。演奏を通して感じるのは、それぞれが主役としての強さがあることだ。各楽器が脇役に落ち着くことがなく、演奏する曲を前へ前へと進めていこうとする強さを感じる。

7曲目の「お鶴」では、冒頭の電子音と佐瀬のサックス、松浦のタイトなドラミングが混ざり合い、生音との対比が美しい空間を作り出した。続く「賽」では、TAIHEIのキーボードが描く旋律の上に各々の演奏が重なり、会場のボルテージは一段と上昇していく。フロアでは自然と体が揺れ出し、観客の心身が音に溶け込んでいくのがわかる。

そして「MONOLITH」へ。賽の楽曲のなかでも特にダンサブルな一曲であり、会場は一気にクラブのような熱狂に包まれた。UKガラージを彷彿とさせるグルーヴィーな電子音に、TAIHEIのキーボードと佐瀬のトランペットが重なる。さらに、電子音に引けを取らない音圧で迫る岩見と松浦のリズム隊が加わり、観客の身体を突き動かしていく。

続く「発電所」では、軽快なシンセサイザーの音色をバンド全体が支え、会場の盛り上がりは最高潮に達した。全員が音の波に身を委ね、至福の空間を享受している。

その熱気のなか、ゲストのRama Pantera(ラマ・パンテラ)がフリースタイルとともに登場し、フィーチャリング曲「rek」がスタートした。泰平がMCで説明していたように、彼は弱冠22歳の新鋭であり、この時点ではまだ1st LPも発売前だという。しかし、その堂々としたクラシカルなスタイル、低音が響く声色、そして叙情的なリリックは、将来の活躍を予感させる説得力を持っていた。

Rama Panteraのパフォーマンスに圧倒されながらも、曲は次々と展開されていく。「始」を経て演奏された「ILA」は、彼らのなかでも屈指のパワフルな楽曲だ。それぞれの楽器の音が強くぶつかり合い、息を飲むような音のシャワーを浴びることになる。

「Garam」「Speculate」と続き、本編は一旦幕を閉じる。

アンコールに応えてTAIHEIが一人でステージに戻ると、「メンバー全員疲れているみたいで……」と苦笑いを見せつつ、ピアノソロを開始した。後半の激しい展開を経て届けられた柔らかな旋律は、観客の心に深く染み入る。

ラストを飾ったのは「NAKE」。最高潮に達した会場の熱を優しく包み込むような演奏が、ライブの終焉を告げた。

全体を通して際立っていたのは、彼らが心から演奏を楽しむことで生まれるポジティブな空気感だった。どれほど高い技術や機材を揃えていても、音楽への純粋な愛と信頼関係がなければ、ここまでの心地よさは生まれないだろう。彼らの曲は画面越しにも聞くことができるかもしれない。だが、音波で揺れる床の振動が足を伝い、彼らの躍動感を目に焼き付け、耳で彼らの感情を聴き、高揚感を感じる。そんな五感を満たすこの感覚は訪れた者にしか味わえない。


櫻打泰平 (Key)、佐瀬悠輔 (Tp)、岩見継吾 (Wb)、松浦千昇 (Dr)の 4 人編成のバンド。
それぞれが個々にも活動し、Jazz を主軸に置きつつも、ブルース、 クラシック、ハウス、アンビエントなど幅広い音楽を彼らなりの解釈で取り入れた、独自の音楽性で人気を集めている。

Live Information

SAI THE LIVE 2026 at 富山 MAIRO
日程:2026/4/28 (Tue)
OPEN 19:00 1st START 20:00 / 2nd START 21:15
料金:¥4,500 + 1Drink
開催場所:MAIRO (富山県富山市桜町2-1-1 アミューズビル 2F)
ATAWARI
MAIRO

SAI THE LIVE 2026 at 高山 Betsuin
日程:2026/4/29 (Wed)
OPEN 19:00 / START 19:30
料金:ADV ¥4,500 DOOR ¥5,500
開催場所:ONDO (岐阜県高山市下二之町 48)
ONDO

Photo  Hiroki OeInterview & Edit  Yutaro OkamotoText  Katsuya Kondo

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