ART & CRAFTS Washi WATARU HATANO
ハタノワタルが生み出す 闇を表現した和紙
和紙が生み出す闇
ぽっかりと壁に穴が空いたような黒い物体。しかし近寄ってみると地表や樹皮のようなテクスチャーが浮かび上がってくる。この吸い込まれそうな作品の正体、実は“和紙”なのだ。京都府綾部市で800年以上に渡って作られている“黒谷和紙”を使ったこの作品は、同地で活動する作家のハタノワタルが作り上げたもの。本連載でさまざまな工芸品を紹介してきたクリエイティブディレクターの南貴之は、ハタノの作品との出会いをこう話す。
「初めてお会いしたのは長野県で行われているクラフトフェアまつもとでした。その時は和紙で作ったお盆や名刺入れなど用途のある小さな作品が出展されていて。その後、広島県尾道市にあるホテルLOGで、ハタノさんが手がけた和紙で作った繭のような部屋にも泊まったんです。どんどん進化する作風に驚きつつ、先日都内で行われた展示会で今回紹介する作品に出会い、また衝撃を受けたんです。とにかく引き込まれてしまいそうで、圧倒的にかっこいいなって(南)」。
闇に創造の原点を感じる
国内でも有数の目利きである南の度肝を抜いたハタノの作品。その素材がわかった上でも、どうやって作り上げたのか検討もつかない。作者のハタノは作品についてこのように語る。「『積み重なったもの』というシリーズの一作です。和紙の素材である楮(こうぞ)に土や顔料を混ぜ、それを何度も塗り重ねていく。そうして一層、二層、三層と繰り返すことで深みが生まれ、凹凸のディテールが現れてきます。土が乾燥することでひび割れて、予期しない表情も見えてくる。今住んでいる家が築100年の古民家なのですが、屋根裏に昔の農家が芝などを積み込むための空間があって。長い時を経て今ではススが木造に染み付き、真っ黒でぽっかりと穴が空いたような空間になっています。その天井裏を毎日見ているうちに、闇に創造の原点を感じるようになったんです。だからその闇を和紙で表現し、空間に置くことで見た人が一瞬でも何かを創造するきっかけになればと思っています」。
全てのベースになり得る和紙
闇を表現するというハタノの創造力。そしてそのアイディアを具現化する力を秘めた和紙。彼自身はこの素材をどう捉えているのか。「もともと油絵を描いていたのですが、キャンバスの代わりに和紙を使ってみたのが出会いのきっかけでした。そのまま興味をもって和紙の世界に飛び込んだんです。100年200年と保つ素材なのに、ただの紙だから誰でも使える。だからさまざまなモノやアート作品のベースになり得る素質を秘めているんです。その可能性を僕がまずは発信していければと思っています」。日本の伝統工芸を代表する和紙。その可能性を広げ続けるハタノのクリエイティビティから目が離せない。
ハタノワタル
多摩美術大学絵画科油画専攻卒。京都府綾部市で800年以上続く黒谷和紙の職人として25歳から修行を始め、現在に至る。平面作品から空間デザインまで、常識に捉われない和紙の表現を行う。
南貴之
クリエイティブディレクターとして活躍。コンセプトストアのグラフペーパーやフレッシュサービスなど、空間デザインを始めとしたさまざまなプロジェクトを手掛ける。
Select Takayuki Minami | Photo Masayuki Nakaya | Interview & Text Yutaro Okamoto |