Coffeekan

長く使い続けられる 民藝の本質を味わえる喫茶店 [可否館/喫茶店]

那覇から車で15分ほどの住宅街にひっそりと佇むのが47年間、地元の人々に愛される喫茶店「可否館」だ。住居にも見える外観だが、中に入ってみるとその雰囲気は一変する。長く愛されながら使われてきたことがわかる重厚感のある家具や調度品。所狭しと並んだやちむんや琉球ガラスをはじめとする民藝品は使い込まれた痕跡が見え、大切に使っていることがよくわかる。「このお店を開いた当時、民藝品はもっと身近なものだったのです」。そう語るのは2代目であり息子の久高浩路だ。
「小さな頃から民藝品に囲まれた生活が当たり前でした。父親にとって民藝品はすぐそばにあるもの。民藝品だからというわけではなく、身近にある自分の好きなものを使って食事やコーヒーを提供したいという思いから始まったのがこのお店でした。消費が当たり前の現代と違い、この店の器や家具は半世紀近く使っているものもあります。本当に好きで良いものであれば長く使い続けられるということは皆さんに知っていただきたいですね。元々このお店は那覇の久茂地という場所で1977年から2001年まで営業していました。開業当初から使っていた家具や器をこの場所に移転させたのですが、久茂地のお店だと知らずに30年ぶりに訪れたお客様が当時と変わらない空間に『懐かしい』と泣いてくれたこともありました。変わらない空間の大切さを再認識させられた出来事でした。父からこの店を継いだのも家族やお客様が昔を懐かしんで集まってくれるこの空間を残していきたいという思いがあったからです」。

父から受け継いだこだわりや思いを後世に伝える久高だが、それはコーヒーにも表れているという。可否館のコーヒーは厳選した豆を自家焙煎で深煎りに仕上げたもの。強いコクと芳醇な香りが特徴だ。
「最近はやっと一般化してきた無農薬やスペシャリティコーヒーを父は開業当初から仕入れていました。30年前に山を買い、家族全員で苗からコーヒーを育てていた時期もありました。今でこそ沖縄でコーヒー豆を生産されている方もいらっしゃいますが、当時は『こんなことする人誰もいないよ』と周りから言われながらもこだわって続けていたようです」。

開業当初から使っているというコーヒーカップ。当時はやちむんのコーヒーカップはなかったらしく、島根の出西窯のものを使用していたそう。カップのヒビにはコーヒーの色が染み込み、使用されている年月の長さを物語っている。

「自分の好きなものを集めた」という店内だが、民藝品に限らずスピーカーはタンノイが使用され、暖簾やメニューに書かれている文字は柚木沙弥郎がデザインを手掛けているなど、どれも趣はあれど古さは感じない。その審美眼の高さと丁寧なものとの向き合い方からは、柳宗悦によって定義づけられた「名も無き職人の手から生み出された日常の生活道具」である民藝の本質を感じることができる。温暖な気候も相まって店内はゆったりとした時間が流れている。ぜひ沖縄で観光に疲れた際は食事とコーヒーと共に民藝の素晴らしさを実際に手に取りながら感じていただきたい。

ランチセットはホットサンド、ゆし豆腐、あまがしが並ぶ。沖縄の伝統甘味であるあまがしは小豆と押し麦を甘く煮詰めて冷やしたもの。苦味の強いコーヒーとの相性が抜群だった。

可否館
沖縄県島尻郡南風原町字新川48-7
098-882-7856
@ko_hi_kan.okinawa

Photo Makoto NakasoneInterview & Text Katsuya Kondo

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