Travel through Architecture by Taka Kawachi
キノコ柱と二重螺旋階段で知られる 東京日仏学院 河内タカ

飯田橋駅から外堀通りを進み、市ヶ谷台に至る逢坂の登り口の小高い敷地に建つ「東京日仏学院」は、フランス政府公式の語学学校・文化センターだ。映画館、図書館、アートギャラリー、フランス関連書籍を扱う書店「パサージュ・リヴ・ゴーシュ」、フレンチ・レストランの「ロワゾー・ドゥ・フランス」を備え、フランス語を学ぶ人たちだけでなく、ここを訪れる人々に気軽にフランス文化に触れることができる開かれた施設であり、東京においてフランスをまるごと味わえる雰囲気が親しまれている。
フランス語教育、文化交流、留学支援、芸術支援といった多角的な取り組みを行っている東京日仏学院だが、実は建築そのものが文化的な価値を持つことでも知られる。この設計を手がけたのが、ル・コルビジュエの下で前川國男の後に1931年から5年間働き、当時の最先端の設計思想やデザイン手法を吸収して帰国した坂倉準三だ。この連載でも以前「旧神奈川県立近代美術館」の設計者として坂倉を紹介したが、フランス文化の発信拠点でもあるということで、日本とフランスの建築文化が混ざり合う日本の近代建築を語る上で欠かせない建物でもある。
現在の東京日仏学院は旧館と新館があり、1951年竣工した旧館を坂倉が設計した。ル・コルビュジエが提唱した「近代建築の五原則」の影響が色濃く見られ、師から受け継いだモダニズムの精神の中に坂倉の独創性が生き生きと表現されている。一方、坂倉の旧館の構想に呼応するように設計された新館は、大阪・関西万博の会場デザインプロデューサーを務め、万博のシンボルである世界最大の木造建築「大屋根リング」の設計・監修によって世界的にその名を轟かせた藤本壮介が設計した。南仏の村をイメージしながら、複数のコンパクトな白い家屋が連なるようにリズムよく配置され、旧館と新館に囲まれた中庭には日本的な松や紅葉が植えられ、建物と緑が一体となった心地よい空間となっている。

坂倉の旧館に話をもどすと、規則的に並んだ窓と水平ラインを強調した低層の建物は、中庭を囲むように配置され、開放的で明るい空間を生み出していている。建物を支えているフランス語でキノコを意味するシャンピニオン柱がひときわ目を引く。グレーに塗られた特徴的な支柱はもちろん単なる装飾ではなく、構造的かつ耐震対策として重要な役割を担っているだけでなく、ギリシャ神殿の柱を思わせるような力強さと優雅さもあるため建物に絶妙なアクセントを与えている。一方、建物の内部で最も注目すべきスポットが、中庭側に面した塔に内部にすっぽり収まっている三角形の二重螺旋階段だ。この世界的に珍しいとされる階段は、2つの階段が絡み合うように螺旋状に3階まで続き、天窓からの自然光に照らされ、緊張感のある造形美を生み出すことでこの建物の先進性を象徴している。
上部からの柔らかな光で照らされた明るい側の階段は、上る人と下りる人が互いに衝突することなく、スムーズに移動できるという構造となっているわけだが、ひとつは院長専用のものとして、そして装飾を省いた裏階段は使用人のために造られたものだ。DNAの模型を思い起こす特異な構造を持つこの二重螺旋階段は、摩訶不思議な建築物を描いたエッシャーの絵を思い起こしてしまうほど劇的なインパクトがある。これは僕の個人的な見解だが、フランス北中部に位置するロワール渓谷にあり世界遺産の「シャンボール城」の階段*1や、イタリアのバチカン美術館の階段*2、あるいは会津若松の「さざえ堂」の木造二重螺旋階段*3などをヒントにしたのではないかと思っているのだが、意外にもその着想に関しての記録は残されていない。
坂倉建築の代名詞ともなっている東京日仏学院は、フランスで培ったモダニズムと日本の美意識が融合した、簡潔ながらも細部にまで美しさが宿る建築だ。そのシンプルな外観とは対照的に、高度な技術とデザインが内包されている点において設計者である坂倉の美学や緻密さが感じられる。同年1951年に完成した旧神奈川県立近代美術館と同じく丁寧に修復されてきたことで、今後も末長く活用されていくことは喜ばしいかぎりだ。
*1 シャンボール城のハイライトの一つで、別々の螺旋階段を使えば、相手とすれ違うことなく上階へ昇り降りができる。この設計したのはレオナルド・ダ・ヴィンチだという説もある。
*2 バチカン美術館の出口付近にあるジュゼッペ・モモが設計した1932年に完成した二重螺旋階段。
*3 会津若松市の飯盛山に1796年に建立され、世界で唯一無二の高さ16.5m、6本の心柱と6本の隅柱を駆使した木造二重螺旋構造の建築物。
Institut français de Tokyo
フランス政府公式の語学学校・文化センター。ギャラリーやレストラン、書店、映画館、図書館、メディアテークなどさまざまな施設が併設されている。旧館は1951年に竣工し、坂倉準三が設計。シャンピニオン柱や二重螺旋階段が象徴的である。新館は藤本壮介が設計し、2021年に竣工。「ヴィレッジ・アズ・アンスティチュ」と名付けられ、小屋のようなシルエットで並ぶ建物が、中庭に面してめぐる幅広の外部通路や緩やかな階段でつながれている。
東京都新宿区市谷船河原町15
河内タカ
長年にわたりニューヨークを拠点にして、ウォーホルやバスキアを含む展覧会のキュレーション、アートブックや写真集の編集を数多く手がける。2011年に帰国し主にアートや写真や建築関連の仕事に携わる。著書に『アートの入り口』(太田出版)や『芸術家たち』(アカツキプレス)があり、来春に本連載をまとめた新刊の出版を予定している。
| Text Taka Kawachi | Photo Tomoaki Shimoyama | Edit Yutaro Okamoto |












