Drawing & Sculpture

波を描くのではなく その現象を起こした風を描く

Clockwise from top right
Width 910mm Height 1500mm
Width 150mm Height 225mm Depth 150mm
Width 235mm Height 70mm Depth 115mm

アートでもクラフトでもない、しかしどちらのアプローチも持ち合わせ新たな価値観を生み出す作品を紹介する本連載。ナビゲーターを務めるクリエイティブディレクターの南貴之は、まさに彼の活動自体がジャンルに捉われない自由なスタイルであり、本連載のテーマに通じている。そんな南が自身の活動の手本として尊敬してやまないのが、グラフィックデザイナーの味岡伸太郎だ。味岡は1949年に生まれ、現在も精力的に活動。グラフィックデザイナーを代表的な肩書きにしつつ、タイプフェイスの開発からグラフィックデザイン、建築、出版、そしてドローイングや立体作品といった美術作品まで、ジャンルという枠組みに収まらない。今回紹介する作品は味岡がここ数ヶ月で制作したものであり、味岡の魅力を南はこう語る。「初めてお会いした時は、質問攻めにしてしまった記憶があります。お話の中で印象に残っているのは、味岡さんが画家の山口長男さんから教わったという『美術に係わることでデザインが大衆に迎合しない。デザインに係わることで美術が社会との接点を見失わずにすむ。美術とデザインが造る山の稜線上を歩け。どちらへ足をとられても谷に落ちる』という言葉です。僕が今までしてきたことはまさにこの言葉が表現することであり、山口さんや味岡さんのような先輩方がいたからこそ今の僕がいるのだなと感銘を受けました。今回紹介させていただく作品は中でも特にアート性が強いものです。物体としての強烈なパワーを持ちながら、初めて見た時は何をどうやって作っているのか全くわかりませんでした。どういう考えや意図が込められているのかが一見するだけだとなかなか読み解けず、でも味岡さんの話を聞くとすっと納得できる。そういうところが面白いなと感じました(南)」。

『弓張・三ヶ日下尾奈地質調査 18』と名付けられ、味岡が自宅から毎日眺める山の地層で、断層ごとに土を採取してドローイングした作品。土や砂がそのままキャンバスに定着し、「作為を出さず、自然現象をありのままに伝える」という味岡のコミュニケーション哲学がストレートに表現されている。

表現は多岐に渡りつつも一貫した味岡イズムが保たれているのは、味岡の考えるデザイン論が一貫しているからのようだ。その一貫性を味岡はこう話す。「グラフィックデザインの本質は“コミュニケーション”です。例えばタイプフェイスの開発にしても、文字をデザインすることが目的ではなく、自分がしたいデザインを実現するために必要なタイプフェイスを開発する必要があったからです。だからデザインが先にあるわけではなく、あくまでもメッセージを伝えるための手段なのです。でも今回紹介させていただいた作品のようにアート要素が強いものを作り始めたきっかけは、グラフィックデザインはコミュニケーションであるわけですから、その枠の中で色や形の本質的な部分を探求することを目的にすることは難しく、でもどこか自分の中ではそのような本質を追求したいという思いがあったことに正直になったからです。そう踏み切れたのは、『美術とデザインが造る山の稜線上を歩け』という山口先生の言葉です。さらに先生が話されたのは、『水面に風が吹いて起こった波を描くのではなく、その現象を引き起こした風を描け』という言葉でした。当時私は二十代でなかなか理解できなかったのですが、強い衝撃を受けました。それから今までの五十年は、その言葉にどう答えるかを考えながら歩んできました。そして辿り着いたのは、自然に身を委ね、自我を出さないように、作為を出さないように制作するということです。今回紹介する3つの作品はまさにそうですね。『弓張・三ヶ日下尾奈地質調査 18 』(パネルの作品)は、私が家から毎日眺めている弓張山地裾野の静岡県浜松市三ヶ日町下尾奈で地面が露出している崖を見つけて、その断層から18段分の土を採取して塗った作品です。断層に沿って土を採取して塗っただけです。そのようにその時々の出会いに忠実にありのままに伝える。絵画は何を描くかではなく、色を平面に塗ることに目的があると私は思っているので、コンポジションや色のハーモニーを考えるのではなく、とにかく自分の作為は出さず、自然が持っている美しさをそのまま伝える方法を考えています。頭で考えたことを作り上げていくのではなく、ありのままを形にするのです(味岡)」。

左の作品は『三辺の比が決まっていれば直方体は再生する』と名付けれられ、欠けているレンガをふと目にした時に、欠けずに残った部分の三辺から欠けた部分の姿を想像できたことを表現している。右の作品は『石の上にも三角錐』と名付けられ、ご想像の通り「石の上にも三年」を言葉遊びした作品。パッと思い浮かんだアイディアをそのままシンプルに表現する。これもまた「伝えたいメッセージを表現するためにデザインがある」という味岡のデザイン理論がシンプルに表現されいる。

味岡伸太郎
1949年生まれ。「デザインはメッセージを伝えるためのコミュニケーションツール」を理念に、立体や平面、陶芸、書体、建築、家具など幅広い領域で活動を行う。

南貴之
アパレルブランドのグラフペーパーやフレッシュサービス、ギャラリー白紙など幅広いプロジェクトを手掛ける。グラフペーパーはパリファッションウィークで2期目の展示会を成功させ、大阪店のオープンも控える。

Select  Takayuki MinamiPhoto  Masayuki NakayaInterview & Text  Yutaro Okamoto

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