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服、ホテル、セラミックで表現する ここにしかない旅のスタイル [オールズ/ホテル&ショップ]

オールズのショップ内観。服やハット、靴、小物、スキンケアプロダクトまで、オリジナルもあればセレクトしているものも一部ある。そのどれもがスーベニアとして買って帰りたくなるような上質なプロダクトだ。
「自分の好きなリゾートのスタイルが
リアルに映る場所が北谷だった」
佐藤陽介

沖縄までわざわざ行かないと買うことができず、通販も行なっていないブランド、オールズ。その店は在沖米軍向けの自宅や施設などが多く、ビーチが近くにあることからどことなくアメリカの香りが漂う街、北谷にある。これまでラルフローレンやフィグベルといったブランドでスタッフや生産管理を勤めてきた佐藤陽介が2016年にオープンしたのが同店だ。服やハットを販売するだけでなくホテルとしても営業し陶芸作品も並ぶこの店。オールズとは何か、佐藤に聞くと「スーベニアショップ」だと答えた。
「ラルフローレンに勤めていたとき、アメリカの文化に対しての会話がすごく多いわけです。ですが、20代前半の頃の自分はまだアメリカへ行ったことがなかったこともあり、自分の目で見たいという気持ちで一ヶ月の休みと有給1年分を合わせて使い、東海岸にあるラルフのお店を回ったことがあるんです。ニューヨークから入り、コネチカット州など、全部で30店舗ぐらい回りました。そんな旅の途中、ニューヨークで泊まったホテルでお土産を買ったんです。そのちょっとしたホテルのお土産が、旅の思い出も加わって愛着を持って大切にできた。旅の思い出とともにあるものは大事にしたくなると感じ、そういうお店を作りたいと考えたのがきっかけです。つまり、自分の好きなものを集めたクオリティの高いスーベニアショップがオールズなんです」。ホテルもあり、服もあって陶器も売っているオールズがスーベニアショップと聞いて腑に落ちた。では、なぜ東京ではなく沖縄の北谷に店を構えたのか。
「沖縄でやりたいと思ったのも、ここであれば自分のやりたい表現が全部できると思ったから。ホテルも陶器もパナマハットも全部できるんじゃないかと。自分はハットをかぶって、スラックスを履いて足元はサンダルでというリゾートのスタイルが好きなんです。北谷はビーチが近く、アメリカの文化も色濃く、自分の好きなスタイルととても合っていた。東海岸のラルフローレンの店舗を回っていた時に気付いたのですが、お店ごとに雰囲気がガラッと変わって、街の雰囲気と合っているんです。そうした影響もあり、自分がやりたいスタイルと一番相性がいい場所を探したら必然的に沖縄の北谷になりました」。
佐藤の好むリゾートスタイルこそがオールズで提案するデザイン美学。服を見てもわかるのだが、一見シンプルで色も白とネイビーの2色展開だ。これに関しても佐藤が実際に自分で着たいと思うものづくりしかしないからだという。「僕は昔から全くスタイルが変わらない。白かネイビーしか着ないし、デイリーで飽きのこない服が好き。だから、オールズのアイテムはシンプルなんです。シンプルな中に自分が好きなアメリカンヴィンテージウエアの要素や細かいディテールのこだわりを入れています。例えば、オールズをオープンしてからずっと作り続けているシャツはレーヨンとポリのクロス生地を使っていて、沖縄でもサラッと着られて旅先でもシワになりにくい。ステッチを端のギリギリ1ミリのところで縫っていることで、カジュアルな中にドレスならではの上品さを加えているんです。オールズは洋服屋ではないので、一般的なファッションブランドのようにシーズンを設けていません。そのため、一度作った服はすべて継続的に作り続けています。自分が好きなものを作り続けているなかで、新しく改善点が見えた時に改良する。そうした服作りを心がけています」。

オールズの近くにある北谷のビーチ。夕方になればビール片手にアメリカ人がビーチを眺めているというこの心地良い雰囲気に惹かれ、北谷のエリアに店を出すことを決めたという。
エクアドルで作る本物のパナマハット

オールズの中でも存在感の強いアイテムであるパナマハット。パナマハットの原材料でもあるトキヤ草はエクアドルとコロンビアでしか取れず輸出も禁止されているので、その他の国で作られた世に出ているものは類似品が多い。だが、オールズのパナマハットはエクアドルで作られた正真正銘の本物だ。
「パナマハットは中学生の頃からずっと好きでかぶっていました。自分はオプティモと呼ばれる形が好きで、それ以外はかぶることもないので、オールズで販売しているハットは全てオプティモなんです。一般的なパナマハットは大体黒いテープが付いていることが多いと思うんですが、それがあまり自分は好きではなくて。船で使うアンカーロープのような編み地の紐が付いていると格好良いんじゃないかと思い、自分で馬の毛を編んでテープ代わりに付けたのがオールズのパナマハットの始まりです。とても長いパナマハットの歴史でもこのリボンのディテールは無かったようでエクアドルのファクトリーブランドでも真似をしたいと多くの声を頂きました」。オールズで販売しているパナマハットは編み地のグレードが3、8、20、24、30以上と様々なグレードに分かれており、数字が高くなるほど細かな編み地になる。モンテクリスティという町で編んでもらっている最高峰のパナマハットは編み始めがどこかわからないほど密な仕上がりが美しい。

取材のタイミングはちょうどハットが納品されてきたタイミングと重なったこともあり、ラインナップも充実していた。
アメリカンヴィンテージに囲まれた
非日常的な空間のホテル

オールズのショップ裏には1室だけのホテルがある。佐藤がいうスーベニアショップにホテルの存在は欠かすことができないが、自分の好きな家具で作る最高のホテルを始めたいというのがきっかけだったという。ショップに置かれている什器同様にホテルに使われている家具も全て東京で働いている時代から集め続けてきたものだという。「このテーブルは僕がラルフローレンのスタッフをしていた時に購入しました。当時は、お店で使っていた什器などの備品を関係者が買うことができたんですよね。これも実際にお店で使われていた什器です。東京でラルフローレンやフィグベルのスタッフとして勤めている時から、いつか自分でお店をやることは決めていたので、ずっと家具を買い揃えていたんです。どの家具も欲しいと思ってすぐに手に入るわけではないですから。そういうこともあり、お店をオープンするときにほとんど什器は新調していません」。
将来やりたいヴィジョンを明確にし、長い時間をかけて家具を買い集めていくという地道な熱意には感服するが、佐藤はホテルの業務を学ぶため、沖縄に来てまずホテルでアルバイトを始めたというから驚きだ。「ホテルをやりたいけれど、業務の知識がない。それで沖縄のリゾートホテルでベルボーイとして働かせてもらいました。ベルボーイの良いところは客室まで全部見れるところ。ホテルと家の違いはなんだろうと最初は考えていましたが、働いていくうちに日常との違いなんだと感じてきました。オールズでも最初は3部屋ぐらいやりたいと思っていたのですが、自分が思う最高の空間を作るには、今持っている家具では1部屋が限界だった。だったらその1部屋を最高にしようと思って作りました」。

ないのなら自分で作る
ORRSらしいセラミック作品

オールズのプロダクトの中でも、簡単には買えない人気の高さを誇るのが陶器で作られた器や灯台の作品たち。これらは、佐藤がオールズの開店前と閉店後の時間を使ってアトリエで制作している作品だ。「服や家具もそうですが、欲しいと思うものが手に入らないのであれば、自分で作ってしまおうと思う性格なんです。元々、陶芸は東京にいる頃から趣味としてはじめ独学で皿を作ったりしていました。灯台の作品を作り始めたのは、フィグベルの英樹さん(東野英樹)が僕が退職する時に、1910年代に作られたアイアンの灯台をプレゼントしてくれたのがきっかけでした。その灯台は調べるととても貴重なもので、まず手に入らない。灯台の魅力に惹かれているうちに、これを陶器で作ったらどうなのかと考え始めて挑戦したんです。自分なりに構造を置き換えながら作った灯台ですが、作ってみるとすごく好評でした」。
取材をしたタイミングは、今年の6月から1ヶ月間、ニューヨークにある“A.THERIEN”という家具を中心としたギャラリーでの展示が控えていたため、アトリエには焼成されたたばかりの多くの新作が置かれていた。「普段は僕がこれまでに影響を受けてきたアメリカのヴィンテージ家具や服のデザインを陶器に取り入れることが多いのですが、今回は海外での展示ということもあり沖縄の要素も意識的に入れました。珊瑚のざらざらとしたテクスチャーを皿の表面に入れたり、沖縄の赤土で灯台を作るなど自分なりに沖縄の魅力を表現しています」。
ものづくりのディテールなど細かな部分にこだわる佐藤だからこそ、陶芸にもその考えが込められている。通常の灯台は円柱形だが、黒い灯台を見ると八角形になっている。これはニューヨークのイーストハンプトンにあるモントーク岬の灯台が八角形ということに由来する。粘土は焼成すると捻れや縮みが発生するために、この八角形を陶器で作ることは非常に難易度が高いようだ。「民藝調の焼き物も雑さがあって逆に良い、という価値観もあると思うんですが、僕はひたすら美しく細かい陶芸をやりたいと思っています。一番簡単な皿の絵付けでも最低でも6時間くらいかかったり、灯台は形成して溝を掘ったりするのに3日間はかかる。誰も真似しようと思わないぐらい細かい作業にこだわりたい」。
自分の好きなことに対して妥協が一切ない佐藤らしい考えだ。
今多くのクリエイションを佐藤はオールズで行なっているが、どれもが好きという思いを表現した一貫したものづくりだ。そこには、佐藤が経験したこれまでの道のりが繋がっているという。
「自分が通ってきたものが好きになって、今のオールズに繋がってきている気がします。ラルフローレンを通ったからネイティブモチーフが好きになったし、フィグベルでは繊細なものづくりや良いものをたくさん教わった。ラルフローレンからフィグベルを通ってきた人はこれまでにいないので、これまでの道のりが全部詰まって自分にしかできない表現になるんじゃないかと思います」。

Left レジ横に置いてあるアイアンの灯台は、フィグベルのデザイナーである東野英樹から贈られたもの。1910年代に作られ、持ってみるとずっしりと重い。「この灯台が自分が進む道を明るく照らしてくれた」と佐藤は話す。
Center 鉄分を多く含んだ沖縄の土をより赤く発色させる為にブレンドして焼成し土のみで赤を表現。ニューヨークで行う展示のために作られた特別な赤い灯台だ。
Right ナバホラグのデザインを落とし込んだジグザグ模様の皿は、目を凝らすと細かな絵付けがされていることがわかる。珊瑚の表面のテクスチャーを皿に加えた模様は1本1本道具を用いて掘っているのだという。

佐藤が陶芸を行う時に使用するアトリエには電気ろくろと電気釜が置かれている。ニューヨークでの展示に向けて発送前の完成した作品や焼く前の乾燥中の状態などが陳列されていた。

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https://www.orrs.okinawa/

Photo Yuto KudoInterview & Text Takayasu Yamada

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