Talk about Paul Weller
ファッションシーンに大きな影響を与えてきた ポールウェラー、今こそ注目したいその魅力 Cross Talk with Yuge Takumi and Takuya Chiba
ザ・ジャム、そしてスタイル・カウンシルのフロントマン、ポール・ウェラーは稀有な存在だ。70年代から現在に至るまで精力的に活動を続け、ブリット・ポップ、アシッド・ジャズといった90年代以降のイギリス音楽シーンに多大な影響を与えてきた。それにとどまらず彼の上品で洗練されたモッズスタイルはファッションシーンにおいても多くの人々を魅了し続けている。そんな彼を自身の“アイドル”と称するのが2023年10月7日より新店舗「AOR」をオープンさせた弓削匠だ。今回はそんなポール・ウェラーの魅力をプライベートでも親交の深いSilver 編集長 千葉琢也との対談から紐解いていく。
ポール・ウェラー
イングランド出身のシンガーソングライター、ミュージシャン。1977年に『ザ・ジャム』のギターボーカルとしてデビュー。1983年より『ザ・スタイル・カウンシル』を結成。「歴史上最も偉大な100人のシンガー」では第76位、2006年にはブリットアワードで功労賞を受賞するなどイギリスを代表するミュージシャンの一人として現役で活動を続けいている。
Left 弓削匠
自身のブランド「Yuge」の立ち上げ、CDジャケットデザイン、ミュージックビデオの監督などファッションと音楽を軸にファッションデザイナー / アートディレクターとして多方面の活躍を見せる。2016年 代々木上原に自身のレコードブティック『Adult Oriented Records』を開始。2020年には『Adult Oriented Records』から派生したブランド『Adult Oriented Robes』を始動し、2023年10月7日よりブランドコンセプトショップ『AOR』をオープンさせた。
Right 千葉琢也
Silver編集長。ファッションはもとより、音楽、ARTなど様々な分野の趣味を常に探求している
弓削 モッズもパンク、ヒップホップも、必ず大きな音楽カルチャーには同時にファッションが関わってきました。その中でもモッズは特にファッショナブルなカルチャーで、音楽性もファッション性も強烈だった。初めて彼らを知った時は大きな衝撃を受けました。中でも今はモッドファーザーと呼ばれ、モッズ以降の音楽カルチャーに大きな影響を与えたのが、ザ・ジャムであり、ポール・ウェラーなんです。
千葉 60年代のR&Bやソウルをクラブで踊り始めたのがモッズカルチャーの一つですよね。
弓削 高速R&Bですね。60年代にザ・フーやキンクス、スモール・フェイセズといったモッズのスターたちが現れ始めたんですが、そんな彼らがポール・ウェラーのヒーローだったんです。60年代が終わり、70年代に入るとロンドンパンクが台頭し、ズタボロの服を着て単純な3コードでシャウトするバンドがメインストリームになる中、ポール・ウェラー率いるザ・ジャムは輝いていた。セックス・ピストルズのような音楽性よりもパフォーマンスとメッセージで主張するアーティストが流行したパンクの時代。小綺麗な三つボタンのモッズスーツを着て、お洒落でモダンなコード進行に社会性のあるパンクな歌詞を載せたスタイルは異質でした。そんな独自のスタイルをポール・ウェラーは作り上げたんです。
千葉 パンクというジャンルは音楽的に見ればあまり複雑なことはやっていないですよね。でもザ・ジャムはそうではなかった。なんならR&Bをやっていた。でもそれをモダンなスタイルでパンク的に表現していたところがかっこいいですよね。
弓削 サッチャー批判など政治的なことも口にするしパンクな精神は持っているけど、佇まいがクールなんですよね。モッズスーツを汚さないようにM-51を着てベスパに乗った不良。ファッション的な側面が強いモッズカルチャーの中でもザ・ジャムは一際お洒落な存在だった。
千葉 この時代からのR&Bからの変遷が面白いですよね。R&Bはロックの元となった音楽ジャンル。白人の音楽だと思われがちなロックですが、元々は黒人音楽。R&Bがロックへと進化していった。モッズのカルチャーはその延長線上にあって黒人の音楽で踊っているイギリスのクラブミュージック。そのモッズカルチャーを全部吸収して再解釈したのがザ・ジャムであり、モッズの精神をさらにスタイリッシュにしていったのがスタイル・カウンシルですよね。音楽的な教養も当時のバンドの中でダントツに高かったと思います。
Itchykoo Park by The Small Faces
All Day and All of the Night by The Kinks
The Kids are Alright by The Who
ポール・ウェラーに影響を与えたモッズスターたち。その中のおすすめの曲たちを弓削氏に抜粋していただいた。特にザ・スモール・フェイセズのギターボーカル、スティーブ・マリオットにポールは大きな影響を受けていた。スティーブの動きを見れば一目瞭然。
スタイルカウンシルが作り上げた
弓削 ポール・ウェラーをファッション的な視点でみると面白いのは、トレンチ・コートにフレッドペリーとロンドントラッドを代表していること。ベースはモッズでありながらスタイル・カウンシル時代はジャケ写からも見れるようにボーダーのシャツを着たり、白いホワイトデニムの上下にペニーローファーを合わせたり、フレンチの要素を取り入れている部分がおしゃれなんですよね。
千葉 イギリス人のエスプリですよね。でもジェントルマンの要素も残している、その中間になっている感じがかっこよかった。
弓削 本当にイケていた。プライドの高いイギリス人がフランス文化を自分なりに取り入れて消化しているセンスの良さに惚れました。スタイル・カウンシルでの彼の音楽もまさにファッションと同じで、ポップスでありながらさまざまなジャンルの音楽をポールのセンスでまとめ上げている。
千葉 モッズのカルチャーから入っていることもあって、ブラックミュージックを全部わかった上で曲作りを行なっている。インテリミュージシャンなんですよね。
弓削 彼自身がレコードコレクターだからね。
千葉 そうですよね。それがまさにセカンドアルバムの『Our Favorite Shop』に表れてますよね。
弓削 あそこに何が写っているのか調べて、ポール・ウェラーの好きなものを徹底的に研究していました。カーティス・メイフィールドのファーストが写っていたり。ビートルズのジャケットが差し込まれていたり、自転車が好きだったからレーシングウェアが映り込んでいたり。タイトル通り自分たちの好きなショップを作るというテーマで作られたジャケットですが、セレクトショップとしての完成度が高すぎますよね。
ポール・ウェラーのスタイル
弓削 また僕がもう一つなぜスタイル・カウンシルが好きかというとファーストの「CAFE BLEU」に共感するところがあるんです。あのジャケットにはイギリス人から見たパリを彼らなりに表現していて。その様子が日本人から見たパリ、ロンドン、ニューヨークを自分なりに落とし込む様と共感する部分があるんです。
千葉 僕は「CAFE BLEU」ってスタイル・カウンシルだなと思うんですよ。ボサノバ的なものからジャズ・バラード、セッションみたいな曲やカフェミュージックといえるものまで幅広く表現されている。ジャズミュージシャンではない彼らがこれを演奏できて、アルバムの中に組み込める。『Our Favorite Shop』に比べると少し粗いけどスタイリッシュなもの全部やってみますみたいな。彼の音楽的な素養の高さとセンスがこの一枚でわかるんです。
弓削 確かにそうですね。彼は色々なものを吸収して、ポール・ウェラーなりに解釈してやっているけれど、それが絶妙なバランスでお洒落にまとまっている。このミクスチャーされた音楽性が90年代以降のアシッド・ジャズやブリット・ポップに引き継がれていくんですよね。一時期ブリット・ポップが隆盛を極めポール・ウェラーの人気が低迷していた時、ブラーのデーモン・アルバーンやオアシスのギャラガー兄弟など彼に影響を受けたアーティスト達が、再度ポール・ウェラーを引っ張り出し、スタイル・カウンシル解散後の彼の人気を再燃させるきっかけを作った。そこからも彼の偉大さが見てとれます。70年代モッズスタイルの代表であったフレッドペリーのポロシャツを90年代のアーティストたちがまた着だしたのもポールの影響があったんだと思います。
千葉 スタイル・カウンシルには良い意味でポップで色々な音楽性が表現されているけど、深掘りしていくとブラジル音楽やソウルなどさまざまな要素が取り込まれている。それがアシッドジャズへと繋がっていったといっても過言ではないはずです。ポール・ウェラーにはジャズやブラックミュージックというものが常に根底にあって、それをうまく彼なりに消化していった。それが彼の音楽が洗練されているのに、深みがある理由だと思います。
弓削 “洗練”は僕の中で常にキーワードとして上がっているんです。僕が店名にもしているAOR (=Adult Oriented Rock) もポップスの中にジャズのコード進行などを取り入れることで、大人びて洗練されたジャンルとして確立していきました。ポールがやってきたようにジャズをはじめ色々な要素を上手なバランスで時代にフィットさせていく。僕は常に音楽をシーズンテーマとして服作りを行うのですが、音楽をどう洋服に落とし込むのか、自分のお店にどのようなものをセレクトしていくのか。『CAFE BLEU』のようにさまざまな要素を自分のスタイルに落とし込んだ物作りをしたいと思うし、『Our Favorite Shop』のように自分の審美眼で選んだものをセレクトするお店にしたいと考えています。
千葉 ポールは常に自分のスタイルでものづくりを行うから音楽もファッションもタイムレスなものになっていますよね。
弓削 彼は自分の中に明確なヴィジョンがあるから本当に流行を追っていない。でもそこには確かなセンスがあり、説得力がある。それは僕の新しいお店でも考えていることなんです。他の人とは違う自分のセンスが表れるもの。そんな物が並ぶお店にしたくて、普段から使っているカルティエのライターや昔から集めていたムラーノ島のヴェネチアンガラスの工芸品など、普段から使っているものを中心にセレクトを始めました。あとは自分が一番多感だった80年代終わりから90年代に作られた音響機器にもこだわりました。一般的に使われているものではないけれどその当時のデザインや音のゴージャスさが好きなんです。特にお気に入りなのが、福岡のサウンドインプレッションさんから譲っていただいた『Proceed pcd』。これはマーク・レビンソンシリーズを製造するマドリガル・オーディオ・ラボラトリーズがCDプレーヤ市場参入の為、新しく立ち上げたプロシードというブランドから1990年に発売されたこだわりのもの。他にもマッキントッシュ、テクニクス、ウーレイなど90年代に製造された機器だけをセッティングしています。ポールが自分の感性を信じ唯一無二の存在になったように、彼のファッションや音楽性から学んだ独自性を自分のお店で表現しています。どんなことをしてもポールの色に染められる彼の作品は僕のものづくりの先生なんです。