Car with Styles by Fumio Ogawa
イギリスの庭を彷彿とさせる 鮮やかなグラデーションカラー
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カラーは言うまでもなくクルマと切っても切り離せないもの。とくに、たとえば時代性の観点からすると、70年代前半のドイツ車には、あざやかなボディカラーが多かった。
あとでメーカー(ポルシェとフォルクスワーゲンのデザイナー)に確認したところ、「あれはアースカラーで、当時はアメリカでマスキー法(大気清浄法)が成立したり、環境意識が高い消費者が増えたため、空や植物、花の色が、量産車にも採用されたんです」と教えてくれた。
花の色というと、いまなら、ロータスが手がける高級スポーティEV「エメヤ」の特別仕様が頭に浮かぶ。その名も「エメヤ・ブロッサム」。ブロッサムは“開花”を意味する英語のサブネームだけあって、なんともあざやかなカラーを持つ。しかも、車体側面を前から後ろへ、視線をずらしていくと、色がグラデーションで変化していくといった凝りかた。
車体のフロント部分はピンク、リアはオレンジ。2色が車体の中央あたりで融合する。エメヤ・ブロッサムのデザインコンセプトがどこから来たか、手がけたビスポークチームは、アイディアの源泉をあきらかにしていないが、なににせよ、花とイギリス人は相性がよいようだ。エメヤ・ブロッサムの車体色は、イギリス人がとくに好むロードデンドロンの花をイメージしたのだろうか。ピンクからオレンジへの変化を、手塗りで表現したと聞く。
イギリス人の庭好き、花好きは、読者のかたもおそらくご存知のとおり。ロンドンはいたるところに緑があふれている。しかも、フランス人は庭園をしっかり管理するのに対して、イギリスはあえておおざっぱ。
逆に、ある種の雑然さこそ美学で、最たるものは「ピクチャレスク」なる庭の様式だ。部屋の窓から見える景色を一幅の絵のように仕立てる庭づくりで、ギリシアの廃墟のイメージを再現することが目指されている。クルマでよく登場するグランドツーリングが、17世紀から19世紀にかけて、英国の生徒たちが学業の一環として、アテネやローマなどを訪れる行事に端を発しているのも、よく知られた話。クルマにも文化的コンテクストがいくつも見い出せるのだ。ロータスでエメヤ・ブロッサムのコンセプト作りを担当した人は、バッテリー駆動のエメヤだけに、エコロジカルなイメージを組み合わせようとしたのかもしれない。
ベースになったのは、エメヤのラインナップにおいてもっともパワフルなエメヤRの下に位置するエメヤS。前後に1基ずつモーターを搭載した全輪駆動で、最高出力は450kW、最大トルクは710Nm。全長5139mmと余裕あるサイズのボディをもつが、静止から時速100kmに達するまでの所要時間はわずか4.15秒だ。実際にスムーズな加速ぶりで、気がつくとおそろしい速度に達していたりする。
インテリアはファブリックを効果的に使い、デザインは斬新。しかも、デジタル化が進んでいて、たいていの操作はタッチパネルで行う。スポーティな4ドアGTでかつ電動というエメヤは、あたらしい時代の訪れを強く感じさせてくれる。それでいて、美しい車体色。その組み合わせがなんともよい。
小川フミオ
自動車誌、グルメ誌、ライフスタイル誌の編集長を経て、現在はフリーランスのジャーナリストとして活躍中。雑誌やウェブなど寄稿媒体多数。
Text Fumio Ogawa | Edit Takuya Chiba Katsuya Kondo |