Fashion Needs Music

ファッションはなぜ 音楽を必要とするのか

シーズンムードを高める
ショーミュージック

メゾンブランドからストリートブランドまで一貫して、上質な心地良さをシンプルな表現で追求することに改めて焦点を当てたものづくりが増えてきた。過度にデコラティブにするのではなく、日々のライフスタイルに即した普遍的で心地の良いファッションが台頭する時代だからこそ、ファッションと常に密接な関係にあった音楽が、今のブランドのアティチュードを紐解く大きなヒントになるだろう。

LOUIS VUITTON

Photo Louis Vuitton

Photo Luis Perez
ファレルらしい
リズム感溢れるディレクション

昨年より新たなメンズ クリエイティブ・ディレクターにファレル・ウィリアムスを迎え、新たなスタートを切ったルイ・ヴィトン。彼はインタビューの中でプロダクトを構築していく工程は曲を作るのに似ているとも語っていた。就任後初となるショーでの大規模なゴスペル隊を動員した生演奏による圧倒的なショーミュージックも印象的で、最新のコレクションではフィナーレに自身の新曲「Good People」を起用。ファレルの作り出すルイ・ヴィトンの世界にはいつもリズムの力が宿り、ファッションと音楽が密接であることの重要性を改めて実感させてくれる。今年の2024メンズ スプリング コレクションでは、ラッパーのタイラー・ザ・クリエイターを迎えたコラボレーションアイテムも発表されたばかりだ。彼は2022年のファレルのシングル「Cash In Cash Out」にも参加しており、ミュージシャンとしても親交が深いことで知られる。仕事のミーティング、ステージへ上がるとき、買い物、いつでも変わらないスタイルで過ごすというタイラー。「いつも身に着けるものを作る」ことに重点をおいたという本コレクションには、どんなシチュエーションも快適で楽しい気分にさせてくれる、上品で洒落の効いたミュージシャンらしい遊びが散りばめられている。

CELINE

スピリットが体現されたロックな世界観

パリで開催予定の2024SSメンズコレクション中止を発表し、その後制作されたショーのムービーを公開したエディ・スリマン。音楽はウィメンズコレクションで起用されたLCDサウンドシステムの「Too Much Love」に続き、メンズコレクションでは「Losing My Edge」が使われた。ジェームズ・マーフィーとコーリー・リッチーはこのショーのために、エクスパンデッド・バージョンを制作したという。リバティーンズ、ホワイト・ストライプス、ストロークスをはじめ、名だたるミュージシャンとの親交も深いエディ・スリマンだが、彼の体現するセリーヌはいつも音楽へのリスペクトが込められたロックでソリッドな唯一無二の世界観なのである。

JIL SANDER

音楽とファッションを繋ぐ精密なグルーヴ

ジル サンダーのショーミュージックには、いつも独特の高揚感が漂う。2024年SSコレクションではスピリチュアルなムードのアリス・コルトレーンやテリー・キャリアーが、2023年FWではビョークやソース・ダイレクトがクリーンな世界観でフィーチャーされていた。中でも印象的なのが2023SSコレクション。フォークシンガーのボニー・ドブソンで幕を開け、デヴィッド・マッカラム、ドロシー・アシュビー、リン・クリストファーなどのレア・グルーヴの名曲、ガレージ~サイケバンドのエレクトリック・プルーンズ、ホセ・フェリシアーノの「California Dreamin’」で幕を閉じるという圧巻の選曲であった。ジャンルや年代の違う音楽でひとつのグルーヴを作り上げる、そこには彼らの服作りにも通ずる精神が宿っているはずだ。

sacai

ジャンルを超えた音楽へのリスペクト

近年でもジャイルズ・ピーターソンの来日ツアーサポートやリゾ、シャーデー、ファンカデリック、シティー・カントリー・シティー、アルティメイト ブレイクス & ビーツをはじめ、音楽からインスピレーションを受けたコレクションを数多くリリースしているサカイ。今年の2024FWコレクションではUKの電子音楽~ダンスミュージックの鬼才として注目を集めるアクトレスが2023年11月にリリースしたアルバム『LXXXVIII』から「Its me」、「Push Power」、「Typewriter World」、「Azd Rain」などが選曲され、中盤のマッシュアップ、フィナーレにスマッシング・パンプキンズの「Tonight Tonight」が使われている。音楽シーンへの愛が深いサカイならではのショーミュージックやコレクションから今後も目が離せない。

プレイリストで表現された
ブランドの世界観

Gucci
新たな始まりを祝う
イタリアブランドならではのセレクト

新クリエイティブ・ディレクター、サバト・デ・サルノのデビューファッションショーを祝した、マーク・ロンソンによるプレイリスト「Gucci Ancora」。2024年春夏ウィメンズ コレクションのショーのために製作された、ミーナによる1978年リリースのイタリアン・ポップス名曲「Ancora,ancora,ancora」のオリジナル リミックスをはじめ、グッチとの親和性を感じさせるイタリアの伝統からのインスピレーションや、時代を超えた多角的な選曲を楽しむことができる。

Prada
挑戦的なムードの中で
揺るがないエレガンス

ショーミュージックで使用された曲がまとめられたプラダのプレイリスト。コレクションによって異なるムードのテイストで、実際にショーの雰囲気を楽しむことができるのが魅力だ。直近のものだと、ウィメンズ2024FWコレクションでは実験的でミニマルな楽曲の中にNicoの「My Funny Valentine」やイルマ・トーマスの「Anyone Who Knows What Love Is」などの女性ヴォーカルが差し込まれ、優雅さの中にもエッジの効いたプラダらしい上品な世界観が表現されている。

Balenciaga
ジャンルを超えた
大胆な自由さがプレイフル

アーティスティック・ディレクターであるデムナが選曲したプレイリストから始動したBALENCIAGA MUSIC。彼のプレイリストは90年代以降のロックやR&Bを始め、キルビルでもおなじみのガレージバンドThe 5.6.7.8’sや由紀さおりまで、ジャンルに縛られない自由な選曲がユニーク。フィッティングルーム用のプレイリストも公開されており、こちらはゆったりとショッピングが楽しめるような優雅な選曲が良い。ルポールやピンク・マルティーニをはじめとした世界的アーティストによるセレクトも要チェック。

The Row
毎月変わるラインナップから
季節の流れを読み取る

ザ・ロウのプレイリストは新旧様々なジャンルを織り交ぜた選曲が秀逸。直近の2月のプレイリストではアレサ・フランクリンやスティーヴィー・ワンダーを始めとした王道のソウルナンバーからロックやインディーポップ、自主盤のフォーク・ロック音源まで、興味深い選曲が並ぶ。毎月新しいプレイリストがアップされるため、季節感を楽しみながら聴けるのも魅力だ。

OAMC
Gimme5やFragmentとの
特別なコラボレーション

オリジナルのプレイリストに加え、近年の流行から往年のヒット曲まで、幅広いカルチャーシーンを抑えた藤原ヒロシによる選曲、ディスコやレア・グルーヴのクラシックスが並ぶギミー・ファイブによる選曲、60年代~現代まで、心地のいい楽曲が詰め込まれたジュリアン・クリンスウィックスのセレクトなど、それぞれのバックグラウンドが感じ取れるディープなコラボレーションは必聴。

OUR LEGACY
繋がりを尊重しながら
タイムレスな美学を追求

音楽家・モデルとしてスウェーデンで活動するババ・スティルツ、DJでアーティストのトルネード・ウォーレス、電子音楽シーンのレジェンド、ラルフ・ランゼン、女性DJのビアンカ・レクシスを始め、彼らと親交の深いアーティストたちによる個性豊かな選曲が充実したアワー・レガシーのプレイリスト。ブランドの理念でもある、モダンかつ普遍的なプロダクトを追求する姿勢が彼等のプレイリストの中にも根付いている。

Wales Bonner
民族や宗教を感じる
ワールドミュージック集

ウェールズ・ボナーのプレイリストはアンビエントやサイケ~辺境、民族音楽などのセレクトが多いのがユニークだ。ララージや、ドン・チェリーなどを始めとしたフリー・ジャズやアヴァンギャルドのパイオニアたちの曲も多く、オリエンタルで心惹かれる選曲が並ぶ。2024年FWコレクションではヤシーン・ベイ(モス・デフ)がライブパフォーマンスを披露しており、ブランドにとって音楽がいかに大切なものであるかを改めて実感させる。

LEMAIRE
多彩なコンセプトで
丁寧かつ繊細にルーツを辿る

テーマごとに更新されるルメールのプレイリストは、気分によって1枚のアルバムやミックスを聴くようにブランドの世界観を楽しむことができる。新旧の枠を超え、ブランドの思想にも通ずる上質で心地のいい選曲が際立ち、以前コレクションもリリースしていたクラウト・ロックを代表するカンやクラスター、アンビエントなどがラインナップ。セルジュ・ゲンズブール、ジェーン・バーキン、フランソワーズ・アルディなどのフレンチポップもフランス生まれのルメールらしいセレクト。

Silver Magazine Music Factory
編集部のセレクトを
不定期更新でお届け

実は本誌のSpotifyアカウントに不定期でプレイリストの更新があることをご存知だろうか。60’s、70’s、ソウル、ジャズからロック、最新のグルーヴまで季節や誌面のテーマに合わせてセレクトしたオリジナルの選曲。仕事や作業中のBGMとして、リラックスしたいとき、ドライブやアウトドアなど、様々なシチュエーションで役立ててもらえたら嬉しい。

Text Mayu KakihataEdit Yutaro Okamoto Aya Sato

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