Interview with BFRND
バレンシアガの楽曲担当であり デムナのミューズ BFRND
バレンシアガ陰の立役者
吹雪の中を闊歩するモデル、泥水まみれのランウェイ。
デムナ率いるBalenciagaのショーはファッションショーの域を超え、創造的分野との高い親和性と、世界へのメッセージを示唆する深いストーリー性で毎回話題となる。そんな“演劇”のようなコレクションを作る上で欠かせない要素“音楽“を担っているのがデムナの公私にわたるパートナーでもありミューズ、モデルでもあるロイク・ゴメスこと作曲家BFRNDだ。
BFRNDが音楽を始めたのは9歳の時。音楽学校などへは行かず、独学でエレキギターを学び、作曲を始めたという。そんな彼がデムナに出会ったのは2016年Facebookを通じてだった。「一目惚れでした。それからすぐに行動を共にするようになって、一年後スイスで結婚しました」。まるでおとぎ話みたいな出会いだったと話すBFRND。そんな彼がBalenciagaのショー音楽を手がけるようになったのは結婚してすぐの2017年から。ブランドの為に音楽を作るのと一人で楽曲を制作することに違いがあるのか聞くと、「それは全く別物」だと答える。「間違いなく、ショーの音楽作りの経験は自分のクリエイティブに影響を与えたし、毎シーズン新しい自分を発見できます。コレクションの音楽は、デムナの頭の中のコンセプトを音という形で表現しなければいけないけれど、一人で製作するのは自分が何者なのか?どんな人間なのかを音楽を通して伝えなければいけません」。と話す。
クチュールからメンズまで数々のショーを担当してきたBFRNDが2023 サマーコレクションの為に制作した“エレファント”は、ヒップホップのバックグラウンドを持つUFO361とSONUS030とのコラボレーションで制作され、言わずもがなデムナの脳内を具現化した一曲だ。「今回デムナのアイディアは”自分らしく生きるためには戦わなくてはいけない”。で、どんな音楽のジャンルにも当てはまらない新しい一曲をつくることを意識しつつ、僕たちはそのテーマに関連する感情を音楽に落とし込むように注力しました」。と話す。
彼らの感情と楽曲名“エレファント (象)”は何の関係があるのだろうか? 象は何のメタファーなのだろうか?と筆者も初めは戸惑ったが、その答えはプレスリリースにあった。The elephant in the roomとは、直訳すると“部屋の中の象”だが、英語のイディオムでその場にいる全員が認識しているがその議題に触れない事を意味していて、人種、宗教、政治、セクシュアリティなど議論することがタブーとされている話題のことを指しているのだ。
BFRNDは楽曲中にビートを刻むように組み込まれた咳払いの音はThe elephant in the roomの隠喩だと話す。「今、人前で咳払いやくしゃみをすることはタブーですが、本来はなにか言いたいことがある時、または私の場合は驚いた時に発するものです。私は観客を少し不愉快な気持ちにさせたかったんだ(笑)」。彼のウィットに富んだギミックは曲の細部にまで散りばめられており、ほかにも行進するような足音は、このトラックのテーマ“自分らしく生きることを妨げるものはこの世の中には何もない”。という無敵感を聴く者たちに与えているようにも感じられる。
BFRNDといえば度々AI技術を作品に用いることでも有名だ。例えば51thクチュールコレクションはAI音声の愛に関するポエムの朗読からショーは始まっていて、今回のアルバムもDall-E2というAI技術を使用しジャケットのアートワークを制作している。「人間が不介入である。という美しさを伝えたかったんだ。私は美しくもあり、時に暴力的でも不可解にでもなりうるイメージを求めていました。AIが人間のように絵を描くことができると言うことは、本来のメッセージをねじ曲げるという意味もあります。ロボットが描いた火の海を歩く人間のシルエットはこの作品に新しい視点とストーリーをプラスしているのです」。かつてBFRNDは、「人間なくしてはAI技術は生まれていない、人間のインプットなしにAIは稼働しないのだ。僕はそんな関係に詩的感興を覚える」。と話している。3Dプリンターという最新技術を使いながら、創業者クリストフル・バレンシアガのヘリテージを現代に落とし込むデムナのパートナーらしく、BFRNDの作曲プロセスにもさまざまな視点の交差から生まれるストーリーがあるのだ。今回はヒップホップ、クチュールではオーケストラとジャンルの垣根を超えて音楽を制作するBFRND。次はどんなジャンルでどんなストーリーなのだろう?今後の楽曲も楽しみで仕方ない。
Elephant (Balenciaga Summer 23 Original soundtrack) by BFRND feat. UFO361 & SONU030
Photography by Anthony Arquier | Styling by Laëtitia Gimenez Adam(the clothing is all Balenciaga and Balenciaga Couture) | Interview & Text Saori Yoshida |