Interview with Ryota Iwai (AURALEE)
オーラリーが提案し続ける 現代のオーセンティック
快適さを追求した上質な素材とタイムレスなデザインで、着る人の心を豊かにするオーラリーの服たち。生活に馴染む心地よさを確固たる核としながら、コレクションごとに新鮮な気持ちをもたらすようなアップデートを重ねるこのブランドこそ、ニューオーセンティックの考えを象徴するブランドであると言える。快適さを好み本物を追い求めるオーラリーがその旗手たる所以はどこにあるのか? 作り手であるデザイナー岩井良太の話から理由を紐解いていこう。
着る人の個性に寄り添い
等身大で謙虚であること
オーラリーの服作りの基盤は、帰するところやはり上質な素材にある。しかしその上質さはある種の緊張感をまとったムードとは一線を画した、大人の余裕を感じさせるムードで服に落とし込まれ、私たちの身体をやさしく包み込む。その懐の深さはどこから来るのだろうか。
「自然体な服の着方が好きなんです。たとえば服自体が着る人よりも強く前に出ていると、その人に会った後に服の印象だけが残ってしまうと思うんですが、オーラリーの服はなんとなく“あの人いい感じの服を着ていて素敵だったな”と思わせるくらいの余韻を残すものであってほしい。これはブランドを作った時から一貫しています。必要以上に見せびらかしたり自分を大きく見せるための服ではなく、等身大で謙虚で、着ている人に寄り添う服を作りたいんです。
たとえば海外に旅行した時、昼間はTシャツとショーツにサンダルを合わせたラフなスタイルでホテルのロビーでくつろいでいたおじさんが、夜になるとシャツを着て、綺麗に身なりを整えてレストランに向かうのを見かけると、素敵なシチュエーションだなと思うし、そんなスタイルに憧れます。その両方が彼にとてもナチュラルに馴染んでいるんです。僕にとっては旅先は日常から離れた特別な場所なので、無理しない程度のドレスアップをして食事に出かけ、お酒は飲めなくても食後にはバーに行ったりする。普段の自分にとってのオーセンティックな服装はTシャツとジーパンかもしれないけれど、旅先では少し綺麗な格好をしてみたくなったりもします。そんな風に、シチュエーションや場所に合っているという前提を満たした上で、着る人に馴染んでいるということが、核を持ったオーセンティックなスタイルなのではないでしょうか。
オーラリーで作っている服はとても範囲が狭くて、世の中で定番と言われているような、無くなることがない服ばかり。だからこそ着る人それぞれの着方がいくらでもあるし、移りゆくファッションの気分と時代に合わせた着方ができるんです。そのためにはずっと着続けたくなるような心地よさは欠かせないですよね」。
ちょっとした気分の変化を表現しつつ
素材を活かすことを第一に
背伸びした自分を見せるための装いではなく、身にまとうことでリラックスすることができるような心地よさへの追求が、上質な素材を用いた生地作りへの源となっている。手に取った瞬間に分かる丁寧な手仕事と、実際に袖を通してはじめて体感できる着心地のよさは、ブランドの立ち上げから今に至るまでずっと着る者を魅了し続ける。しかしブランドとして歴史を重ねる中で、ファンを喜ばせるために新しいものを生み出し続けなければならない、というのは歴史上のデザイナーたちもずっと考えてきたことであるはずだ。
「シーズンごとに気分が新しくなるようにアップデートはしていますが、その変化はもしかしたら人から見ると些細なものなのかもしれません。ベーシックなアイテムであってもどこかに新鮮さを感じてもらうために、色味やシルエット、素材そのものから気を遣っています。
アップデートしていくための手順は、まず第一に素材を活かす方法を考えるところからはじまります。素材を生地にするときに、重さを出したいとか軽さを出したいとか、ふわっとさせたいとか、その時の気分にフィットした生地を作って、それを活かせるシルエットやデザインを当てこむイメージで服を作ることが多いです。
2024年秋冬コレクションでは“帰り道”というテーマで、人々の生活の中でのオンとオフの境目をイメージしました。仕事帰りの人をイメージしたスーツやワークスタイルだったり、友人とご飯を食べに行く人がいれば、家族が待っている家に帰る人もいる。少し気分が高揚するような幸せな帰路のイメージです。それぞれの日常の中にあるシチュエーションをリアルに想像できるような服を作りました。
ディテールについて話せば、例えばレザーのブルゾンはフライトジャケットとモーターサイクルブルゾンの間をイメージしたデザインにしました。昔のプロダクトはホースレザーやカウレザーを使った重いものが多かったんですが、オーラリーではラムレザーを使って、見た目はヴィンテージ のようだけれど重さや硬さを感じないように仕上げています。秋冬らしいツイードの生地はアルパカの一種であるラマの毛と、英国のハリスツイードのウールを混ぜて、柔らかくて軽いのにハリがある、奥行きのある現代的なものに。極厚のメルトンをラフなジップアップパーカーのデザインに落とし込んだりもしました。古着でもありそうなんですが、なかなか無かったんです。ダック地を使用したアウターとパンツのシリーズは、顔料プリントで色を乗せて、洗い込むことで味を出しました。コートには表地に一般的なウールを使いつつ、裏地に薄いスポンジを貼ることでハリと膨らみのあるしっかりとしたシルエットを作っています。
見た目はクラシックな服を、現代的な素材を使って作ることを意識しています。また、ここ数回のコレクションでビビッドな色を使っているので、そこも新鮮になっているポイントですね。色選びのインスピレーションというのは特にはなくて、本当に原始的なやり方です。何千色とあるパントーンのチップを見ながら気になる色をピックアップしていって、それを数回繰り返して少しずつ候補を絞っていくんです。なんとなくこういう色味かなというイメージが完成したら、生地のビーカー出しで微調整を重ねてイメージに近づけていきます。素材と色の相性も確かめながら色の選定をするので、服作りの全行程の中でもっとも時間がかかる部分です」。
服自体の第一印象はクラシックだが、それを作る過程での考え方や素材の選び方は、時代とともに変化していく。ブランドの核が変わらないからこそ、一つ一つの小さな変化の連なりとその組み合わせ方のバランス次第で、シーズンごとに新鮮さを生み出すことができるのだ。スタイリング次第でランウェイで映える華やかさを醸すこともあれば、日常を彩ることもできる服。過度なデコレーションや、奇をてらった意外性がなくともファッションへの欲求は満たすことができるのだとオーラリーの服は教えてくれる。
学生時代から一貫した
心地よさへの探究心
岩井がオーラリーを通じて追求していることには、岩井自身が個人として選択してきたファッションが深く関係している。岩井が服を選ぶ時の基準として一貫しているのは、シンプルで洗練されたスタイルだ。
「ファッションへの探究心を持ち始めた高校生の頃から好きなものはずっと変わっていないんです。基本はTシャツにリーバイスのデニムか、ディッキーズかカーハートのダックパンツ、もしくはスラックス。ハイゲージのニットとブルーのシャツも昔からよく着ています。ダックパンツは綺麗なものは一本も持っていなくて、ボロボロなものが多いです。古着で買った時からペンキがついているものが、自分が穿き続ける中でどんどんボロボロになっていたり。
あとはやっぱりカシミヤですね。昔着ていたカシミヤは古着でゆったりとしたシルエットのセーターばかりでしたが、今は古着も着るし自分のブランドのものも着ます。一貫しているのは、サイズ感が良く、色味も綺麗なものであるということ。カシミヤを着ると、上品さもあり綺麗に見えるので相手にも失礼にならない気がするし、着心地もいい。毎日着ているから日常的なものだけど、僕にとって特別な素材です。賞の授賞式でもカシミヤのセーターを着ました。
同じものをずっと着てはいるけれど、たまたま趣味も体型も変わっていないというだけ。気に入ったものはずっと持っているし、逆に着なくなってしまってそのままの服もあります。自分自身のファッションはずっと同じで、ブランドとして作っているものもベースは変わりません。僕にはベーシックなものを素材を追求しながら作ることしかできないし、それを続けてきました。その中でも、少しでも新鮮さを感じてもらえるようにこれからもシーズンのムードをアップデートしていきたいです」。
心地よさを感じられる服を自然に選びながら、自らのファッションに真っ直ぐに向き合ってきた岩井。世の中の機微を感じ取り、それを機能性として直接服に反映させるというデザインの定説にならうのではなく、着心地を追い求めて上質な美しいウエアを作り続ける。着方次第でどんなシチュエーションにも合い、着る人の気持ちを豊かにする、そんなオーラリーの洋服に我々は魅了され続けている。
AURALEE
https://auralee.jp/
Photo Tomoaki Shimoyama | Interview & Text Aya Sato |