Interview with Yosuke Aizawa (White Mountaineering)
仕事とプライベートを支える 相澤陽介の車との付き合い方
車とファッションがある
相澤陽介
東京と軽井沢
2拠点生活を繋ぐ車
ファッション業界でも指折りの車好きとして知られる、ホワイトマウンテニアリングのデザイナー相澤陽介。相澤はブランドを率いる一方で、様々な国内外のブランドや企業、はたまたサッカーチームなどのデザインを手掛けるなどその活動の幅は広い。そんな、多彩なデザインワークをこなす相澤が仕事をする上で拠点としているのが、東京と軽井沢の2拠点だ。
東京と軽井沢は、言い換えると都市と自然。それぞれの環境や使い方に応じた機能が車にも必要になってくる。そんな相澤が今、所有している車は、ポルシェの911(964型)、928、ランドローバーのディフェンダー、スバルのフォレスターといった計4台。週に1往復のペースで行き来する東京と軽井沢の移動手段を聞くと、主に911(964型)かディフェンダーを使うようだ。
「過去にポルシェの911(997型)を乗っていたことがあるのですが、空冷エンジンのポルシェをずっと探していて出会ったのがこのシルバーの964です。数年乗っていますが、エンジンのコトコトコト……という音や振動が心地良いんです。所有している4台の中でも964と928は、家族とではなくプライベートのための車。東京の家から軽井沢までの2時間の関越道を走り、道中でいろいろなことを考えるのにちょうど良いんです」。
別荘地ならではの美しい木々が生い茂る自然豊かな場所に相澤の別荘はある。まさに、山小屋という呼び名が相応しい佇まいの家。相澤にとって軽井沢の別荘は、都市から離れ、ひとりでものごとを考える場所であり、遊びの拠点でもあるようだ。そして、そんな自然の中の生活を支えるため、別荘に置いている車がフォレスターである。
汚れてもサマになる
軽井沢仕様のフォレスター
「この辺りはスキー場が多いのですが、子どもの頃からスキーをしに両親に連れてきてもらっていたこともあり、僕にとって昔から馴染み深い場所なんです。ここから、3、40分くらい車を走らせるとスキー場に着く恵まれた立地なので、冬になればこのフォレスターにはスノーボードを積みっぱなしです。デザイン業務は東京で行いますが、コンセプトを考えたり、出来上がった製品を実際に自然の中で試すなんてことをこの軽井沢では行っています。ここに置いておける車として探した時に、最初はジムニーを検討していたのですが、車好きの友人からフォレスターを勧められたことがきっかけとなりました。僕は5人家族なので、全員が集まった時に確かにジムニーだと乗れない。フォレスターだとちょうど5人乗りで、ありか、と思いました。でも、ノーマルで乗るのも面白くなかったので、できる限り改造をしたいと思い、リフトアップをし、フォグランプを着けて軽井沢仕様へと変えてみました。軽井沢は、夜になると街灯も少なく、森の中は真っ暗です。それに霧もすごく、僕が今、デザインを手がけている北軽井沢のホテルNOT A HOTEL KITAKARUIZAWAの建設現場へと向かう途中も浅間山で標高が高くなります。碓氷峠を超えて、インターに行くまでも濃霧で本当に前が見えないぐらいの視界になるんです。フォグランプはそうした時のためのものです。それだけでなく、フォレスターは走りやすく、汚れてもサマになる感じがします。軽井沢の別荘に置きっぱなしでも、汚れや日焼けしたボンネットが格好良く見えるんです」。
話を聞いていると、仕事や趣味、家族との生活など相澤のライフスタイルが車に表れていることがわかってくる。そうした必要なシーンに合うという考えは、「服を着るフィールドはすべてアウトドア」をコンセプトとし、都市や自然環境でも適応するデザイン性や機能性が考えられたホワイトマウンテニアリングのウエアともリンクする。
「自分が着ている服はいつも黒なんですよね。ホワイトマウンテニアリングでもBLKという黒のみでラインナップしたハイスペックラインがあるのですが、自分にとって特別こだわりがあるのが黒という色。SUVは、普段、レジャーとかスノーボードをしに行く時や子どもを乗せたりなど自分の生活に近い使い方をするので普段の洋服とリンクするということで黒を選んでいるのかもしれません。また、実際にものを使うことで初めてわかる魅力を知ることも大切だと思っています。例えば、今日もトッズのドライビングシューズを履いているんですが、こうしたシューズは名品と知りながらも案外、自分で試す機会がなかったりします。でも、履いてみると噂通りとても運転がしやすい。ソールのペブルがアクセルやブレーキなどのペダルをちゃんとグリップするので全然ずれないんです。また、ポルシェを運転している時は腕時計はヴァシュロン・コンスタンタンのドライバーズウォッチであるヒストリークアメリカン1921を着けることが多いです。傾いた文字盤がドライビングの時にとても見やすいんですよ。そういった名品をちゃんと使って知る大切さが、車でも言えると思っています。そうした、テストをする場所としても東京と軽井沢の二拠点生活はちょうど良いんです」。
実用性のSUVに対して
ポルシェは憧れ
これまでに買った愛車遍歴を聞くと、大学生の頃に買ったトヨタのハイラックスサーフに始まり、フォルクスワーゲンのゴルフワゴン、メルセデスのML350、ボルボのXC90、レクサスのRX、レンジローバーのヴェラール、そしてディフェンダーとSUVを乗り継いできたようだ。その途中でポルシェを911(997型)から911(964型)と928というように所有をしてきたという。「完全に実用性のSUVに対して、ポルシェは憧れ」と相澤は話す。ポルシェは相澤にとって幼少期からの憧れによるもののようだ。
「車が好きになった小学生の頃に見ていたF1の存在が大きいかもしれません。その頃はアラン・プロストとかアイルトン・セナといったレーサーが活躍していましたが、そういうものを見て『車が格好良い』という印象になっていった気がします。スポーツカーに憧れてプラモデルやミニカーを持っていたのですが、その中でも特に気に入っていたのがシルバーのポルシェでした。ポルシェ=シルバーというのは、その頃に育まれたイメージのような気がします。それに、ポルシェもシルバーという色は大事にしていると思うんです。現行でもシルバーは用意されていて、シルバーのバリエーションもいろいろとある。僕の印象では、ポルシェといえばシルバーがアイコニックなカラーに思えるんです。そういうこともあって、ポルシェはこれまでに3台乗っているんですが、シルバーしか乗ったことがありません」。
そんな相澤が所有しているポルシェ928は、都内のドライブを楽しむための車だ。928が登場した70年代ならではのまるで宇宙船のような近未来的なデザインが美しい1台は、コンクリートで埋め尽くされた東京のビル街にとても合っていた。
「このアイコニックなデザインがとても良いですね。映画だとスカーフェイスやヒドゥンという80年代の映画でも登場しています。両方とも小さい時に見て、いつか欲しいと思っていた車ですが、探しても全然ないんです。ずっと探している中で、2年くらい前に良い状態の1台を見つけることができて即決しました。でも、なかなかわがままな子でして……。急に止まってしまったりと手間もかかるので、大事な仕事の時は乗らないようにしています。それでもこの近未来的なデザインは乗っていて気分がいい。70~80年代は、ミレニアムに向けて、世の中がどうなっていくのかという期待と不安が入り混じっていた時代です。人類がユートピアに向かって宇宙開発をすることもあれば、環境問題や戦争などディストピアの方に向かおうという不安が交錯することで、未来を考えていた時代のデザイン。それが928には表れていて、宇宙船でもあり、ガンダムのコックピットみたいな感じがします。そういうのが東京の街に、特に西新宿あたりの高層ビル群や首都高ですごく映えると思うんです。そういうところを走っていると、フューチャー&クラシックの雰囲気があって。究極の自己満足カーだと思っています」。
相澤にとっての車は、あくまでも場所と場所を繋ぐ移動手段のもの。変化していく趣味や生活に合わせて適応できる実用性における最善の選択肢を選んでいく考えと、車そのものが好きで運転も好きであるという考えを両立させていた。今、所有している4台はまさに今、現在の相澤のライフスタイルにあったベストセレクトなのだろう。
相澤陽介
ホワイトマウンテニアリングのデザイナーとして、年2回パリコレクションで発表をし続ける。そのほかにも、クロネコヤマトのセールスドライバーや受付スタッフの制服や北海道コンサドーレ札幌のユニフォームなど多くのブランドや企業のデザインも手掛ける。
Photo Kei Sakakura | Interview & Text Takayasu Yamada |