Car with Styles by Fumio Ogawa Land Rover by Queen Elizabeth Ⅱ
英国女王自らハンドルを握る 時を超え愛される英国の名品

「ストーリーを持ったスタイルある車」と題し、人と車に焦点を当て、スタイルを解き明かす本企画。すぐに着替えることのできる洋服と違い、車はすぐにアップデートができない。そこにはよりその人らしさが見えてくるのではないだろうか。歴史的な偉人たちと、彼らの愛車の関係をライター・小川フミオとイラストから紐解いていく。
服飾の世界でタイムレスなアイテムは多い。英国だと例えばバブアーのワックスジャケット。私は40年前にエディンバラで購入していらい、いまも毎日のように愛用している。長所は「いいかんじにヤレてきましたね」と褒めてもらえるところだ。
機能的で、使っているとどんどん味が出てくる──クルマでいうとやはり英国製のランドローバーは好例。当時はジャガーよりプレスティッジの高かったローバーの仕事をしていたモーリス・ウィルクスなる設計者が、自分の農場で乗り回せるようにと初代を設計。世に出たのは1948年のことだ。
もうひとつ、第二次大戦を経験した英国の軍隊が、米国のジープのような多目的車を欲しがっていたのも、開発の背景にある。陸地のどこでも走れる車両としてランドローバーと名付けられた。
当時の車両は、ロンドンから100マイルほど北西に上がったコベントリー近郊のジャガー・ランドローバー・クラシックワークスに動態保存されている。汎用性の高い円形ヘッドランプ、ラジエターを石跳ねから守るネット、破損しても即座に交換可能なフェンダー、とジープのような機能主義的設計。そこがシンプルゆえの美しさになっている。
私は当時の、まだランドローバーとしか呼ばれていなかった車両を運転したことがある。とにかく遅い。でも力がたっぷりあって、スコットランドの丘陵地帯を不安なく走れたのが印象的だった。1970年代以降は、さまざまな場所で、ランドローバーとトヨタ・ランドクルーザーは競合する。その際、“ランドクルーザーはエンジンが残り、ランドローバーは車体が残る”と言われていたようだ。腐食に鉄より強いアルミニウムのボディが使われていたからだ。
現代的快適性にはとぼしくても、このクルマを愛した人は多い。英国のクレイアニメーション「ウォレスとグルミット」(Wallace and Gromit)から、ネットフリックスの連続ドラマ「ザ・クラウン」にいたるまで、ランドローバーは(バブアーのワックスコートとともに)必ず登場する。
なかでも有名な人といえば、2022年死去のエリザベス二世だろう。ランドローバーとともに写っている写真が多数残っている。ランドローバーによると、1954年に当時の英国国王ジョージ六世に納品した車両が最初だそう。スコットランド・アバディーンシャーにあるバルモラル城に置かれ、娘のエリザベス二世ら王室のメンバーが狩りをするときなどに重宝されたという。先述の「ザ・クラウン」には再現シーンが多く登場する。
エリザベス二世は、運転手をつけるより、自分でステアリングホイールを握ることを好んだようだ。ランドローバーも例外でない。大戦中は、軍用車両の整備を担当していて、「プリンセス・オートメカニック」とニックネームをもらっていたというから、クルマ好きとしても筋金入りだ。
長女のアン王女もクルマが大好き。私が以前、真冬のスコットランドにランドローバー車のテストドライブに出かけた際、空港からロッジ風ホテルまで(たしか)雪中を自らランドローバーを運転してやってきてくれた。私に、というわけではなく、アン王女はランドローバーにロイヤルウォラントを与えているので、このブランドの大使みたいな役割を果たしたのだろう。
このとき、私をはじめ日本から訪れていたジャーナリストはみな、日本の広報から「お迎えするにあたって、ディナージャケットを着るように」と言われていた。おもしろかったのは、ブラックタイの私たちを見たアン王女のあきれ顔。
「日本からわざわざディナージャケットを?なんでそんな(バカげた)ことを」と叱責した。もうひとつは、ハンティングロッジでディナージャケットって、スタイル的にもおかしいってことが言いたかったのかもしれない。日本では考えられないことだなあと、興味深かった。
小川フミオ
自動車誌、グルメ誌、ライフスタイル誌の編集長を経て、現在はフリーランスのジャーナリストとして活躍中。雑誌やウェブなど寄稿媒体多数。
| Text Fumio Ogawa | Illustration Kazuma Mikami | Edit Takuya Chiba Katsuya Kondo |












