Paul Smith & Commission Special Interview
ポール・スミスが語る コミッションとの世代を超えたコラボレーション
“サー・ポール・スミス”。ファションデザイナーとして史上二人目となる「ナイト」の称号をエリザベス女王から与えられた人物であり、1970年にイギリスのノッティンガムでスタートさせた広さ3m×3mほどの小さなショップから、今や60カ国以上に約130店舗を持つ世界的ブランド、「ポール・スミス」を育て上げた。「Classic with a Twist(ひねりのあるクラシック)」をブランドの一つの特徴と位置づけデザインされるアイテムは、ポール・スミス本人(以下ポール)を生き写したようなエネルギーとウィットに富み、世界中の人を楽しませている。そんなポールは50年以上続くブランドである「ポール・スミス」に新たな“Twist(ひねり)”を加え、さらには良きアドバイザーとして次世代のファッションデザイナーをサポートすることへの意識が近年ふつふつと高まっていたようだ。そうして生まれたプロジェクトが、若手デザイナーと世代を超えたコラボレーションを行う「&PaulSmith」。その第二回目としてニューヨークベースのブランド「コミッション」とコラボレーションしたコレクションが11月にローンチされる。ポールはこのコレクションと「&PaulSmith」をどう楽しんでいるのだろうか。
ー「&PaulSmith」を立ち上げた経緯を教えてください。
ポール:これまで若手デザイナーや学生に向けて講義をする機会がよくありました。その交流を通じて感じていたことは、「どうすればファッションデザインに成り得るのか」をまだ理解し切れていない人が多いということでした。迷える若き才能をどうすればサポートできるかと考えてスタートさせたのが「&PaulSmith」というプロジェクトなのです。第一回目はロンドンベースのデザイナー、プリヤ・アルワリヤとコラボレーションしました。彼女はデザインの才能に溢れていたのですが、ブランドを育てるというビジネス的な経験はまだ浅かった。そこをポール・スミスの経験値でバックアップすることで、プリヤ・アルワリヤの才能をさらに引き出せる環境を作ろうとしたのです。結果的に生まれたアイテムは、プリヤ・アルワリヤとポール・スミスのクリエイティビティがうまく融合し、サスティナビリティにも配慮した素晴らしいコレクションになりました。
ー今回のコラボレーション相手であるコミッションとの出会いを教えてください。
ポール:「&PaulSmith」の第二回目に向けて、6組のデザイナーと会いました。その中からコラボレーション相手として選んだのがコミッションです。コミッションの服はとてもシンプルだけどモダンさがあり、なによりも着やすそうだと感じたことがポイントでした。あくまでも個人的な見解ですが、一般的に若いデザイナーはオーバーデザインな印象を受けます。若さゆえにアイディアに富んでいることは素晴らしいのですが、足し算だけでなく引き算する美しさも学んでいく必要があると思っています。
ーコミッションと実際にコミュニケーションを取り、どのような印象を受けましたか?
ポール:デザイナーであるディラン・カオとジン・ケイはニューヨークを拠点に活動しており、それぞれベトナムと韓国出身の両親を持つアメリカ移民1世です。そのバックグラウンドを活かし、アジア文化を再解釈した要素や、彼らの両親が90年代に着ていたワードローブをインスピレーションにしたりと、ノスタルジックな要素を現代的なユニフォームに落とし込むアイディアがスマートだなと感じました。色々な要素をミックスしているけど、ごちゃごちゃしておらず、シンプルにまとめられていることに感心しましたね。
ーコミッションが「&PaulSmith」で提案したアイテムはどうでしたか?
ポール:私のブランドでは過去のコレクションアイテムをアーカイブとして4600点以上持っていて、全て写真に撮ってデータ管理してあります。そのアーカイブをコミッションの2人は掘っていき、今回のコレクションのインスピレーションになるアイテムを見つけてきました。具体的にはミリタリーテイストやスポーティなジャケット、ダウンのような生地のコート、80年代のポップアートをオマージュしたオリジナルのグラフィックなどでした。先ほども言いましたが、コミッションはアジアの文化をバックグラウンドに持っています。特にデザイナー2人の両親が実際に着ていた服の影響が大きく、その要素を「ポール・スミス」のアーカイブアイテムに落とし込んだことで、どこかノスタルジックな、90年代のアジアの人たちを連想させるようなディテールや空気感が加わりました。具体的にはステッチのディテールや生地の切り返し、裏地のカラーリングなどですね。そういう細部にコミッションらしいムードが感じられます。そんな空気感を「ポール・スミス」と融合させてくれたので、今回のプロジェクトには大満足しています。そうやって“Twist(ひねり)”を加えてくれることを期待していましたし、彼らと意見交換することはとても刺激になりました。
ー具体的にはどのような刺激をポールさん自身は受けましたか?
ポール:過去に生み出されたものをインスピレーションにしつつも、レプリカのように再現するのではなく、今の時代感を加えることの大切さですね。私はとてもラッキーだったなと思っているのは、若い人たちと交流する機会が多かったことです。「ポール・スミス」の若いスタッフも、例えば90年代のアーカイブのジャケットを今見ると新鮮に感じるようで、驚いたり感動してくれたりします。過去のものであっても、新しい視点から見ると新鮮な情報が溢れているのです。新しい切り口でアップデートすれば、また新たなアイテムが生み出されるのです。ファッションとは歴史を繰り返しつつ、常に“今”の要素を加えて新しいものを作っていくことなのです。現在では膨大なデータを集めて、セールスのトップの人がその数字だけで判断し、よく売れたアイテムをもう一度作らせるというビジネスをしているブランドもあったりしますよね。そういうデータベースのものづくりはとても危険なことです。なぜならデータにはビジョンがないから。ビジョンがなければ次に進むことなどできないのです。データや過去だけを頼りにするのではなく、常に現代の新しい要素を加えなければならないのです。そしてそこには方程式なども決してないのです。
ー今回のプロジェクトを進める上で、コミッションにどのようなアドバイスをしましたか?
ポール:トータルルックでアイテムを作ることですね。お店で服を売るときは、例えばシャツだけではなく、そのシャツに合うコートやパンツもプラスで提案することです。そうするとお客さんはある意味で完成されたコーディネートを手にいれることができますし、お店は売上が増えますよね。だからお互いにとってメリットがあるわけです。デザイナー目線で言えば、過去のコレクションを振り返るときに全体のルックとして見ることができるので、当時自分が考えていたスタイルを掴みやすいんです。これはとても面白いことですよ。例えば、89年のコレクションでは丈の短いアウターに太いパンツを合わせていたんだなとか、ダブルのジャケットが気分だったんだなとか。それはアイテム単体で振り返る以上にスタイルや当時の空気感を伝えてくれるのです。そして現在だとダブルのジャケットのボタン幅は少し狭める方が気分だなとか、時代を比較できるのが楽しいですね。
今回のコレクションは「ポール・スミス」の一部店舗やオンラインショップで限定販売しますが、それはコミッションにとって非常に意味のあることだと思っています。彼らが作ったアイテムを日本の人たちが手に取ることができるので、コミッションのクリエイティビティを楽しんでもらいたいですし、そこからコミッションの人気に繋がっていくと嬉しいです。デザイナーのディランとケイの2人は、「あと10倍のコレクション数を作ることだってできますよ」と言うぐらいアイディアに溢れているので、今後の活動にも期待してほしいです。
ー先ほど仰られていましたが、これまでに4500点以上のアイテムを生み出してきたことには驚かされました。ブランド設立から50年以上に渡ってクリエイティブワークを続けてこられたわけですが、その尽きることのないアイディアはどこから湧き出てくるのでしょうか?
ポール:いつも欠かさずメモ帳とペンを持ち歩いています。そして日々を過ごす中で心に引っ掛かることは、どんな些細なことであれ覚え書きするようにしているのです。そのメモは僕にしか読めないまるでエジプトの象形文字のようなものですが、振り返って読むと記憶が蘇るキーワードなのです。例えば以前、「蝶々の羽」というメモを書きました。それはどういう意味かというと、蝶々の羽は見る角度によって色が変わる玉虫色なのだと知った時に書いたものでした。その記憶から後日アイディアを広げていき、玉虫効果で色の変化を楽しめるコットンニットを作りましたね。そういうふうに何かの材質やテクスチャを書いていることは多いかもしれないです。あとは「食事を忘れるな」とか、「トイレに行く」とかを書いてありますかね(笑)。今の人はスマートフォンにメモをすることが多いと思いますが、僕にとっては紙とペンがベストですね。紙が大好きで、日本を訪れるときには必ず伊東屋に行きます。色々な場所で買い集めているので、使っていないノートだけでも400冊は持っています(笑)。
ーコミッションの2人は両親の影響を強く受けたものづくりをしていますが、ポールさんはご自身の父親と共同で作った写真集『Father & Son(父と息子)』を出版されていますよね。ポールさんもクリエイティブワークをする上でご両親の影響は大きいでしょうか?
ポール:まさにそうですね。実は僕の父親もよくメモを取っていましたし、ユーモアに溢れたクリエイティブで紳士な人でした。昔からなんでも自分で作ってしまう人で、彼は92歳のときには靴べらを自作していたことには驚きましたが(笑)。その靴べらは僕の姉が今も使っていますね。
僕は11歳の頃から写真を撮り始めたのですが、当然フィルムカメラの時代で、そのネガの現像は父に教えてもらいました。現像の方法でも父とよく遊んでいて、絨毯に座る僕の写真と空の写真を重ねて印画紙に焼き付けて、絨毯で空を飛ぶポール少年の写真を作ったりしていましたね。家の一室に現像をするための暗室があったのですが、暗室は字の通り暗くしておく必要があります。でも完全な暗闇だと何も見えないから、現像に影響しない赤い電球が一個だけ吊るされてあるんです。その赤い電球を父へのオマージュとして、僕がずっと使ってる腕時計の裏蓋にこっそりとデザインしてあります。そういう自分しか知らない秘密のようなものはとても大切で、そういう特別な気持ちにさせてくれるアイテムを人は買いたくなるものなのです。そんなものを「ポール・スミス」や「&PaulSmith」でこれからも生み出していきたいと思っています。
Commission&PaulSmith(コミッション&ポール・スミス)は
ポール・スミス公式サイト、銀座、丸の内、渋谷、大阪店にて11月8日より発売予定。
Photo (Model) Paul Smith | Photo (Interview) Shunya Arai | Edit Yutaro Okamoto Takayasu Yamada |