Places of Comfort & Chic

藤井隆行が選ぶメイドインジャパン の大切さを教えてくれる場所

クリエイターを刺激する
心地の良いセンスある空間

“Comfort”で“Chic”な場所とはどんな場所だろう?心地の良い音楽とゆったりした時間が流れるカフェ?歴史と情緒にあふれた宿?センスある作品を目にできる美術館?答えは人の数だけあるだろうが、それらはいずれも訪れたものの気持ちを豊かにしてくれる場所に違いない。時代のムードが変わり、豊かさ、贅沢の基準も変わってきた。高級ホテルやレストランなど、いわゆる“ラグジュアリー”とは違う心の贅沢。豊かな時間を過ごせる場所。ここからはそんな場所について、ファッションの第一線で活躍する6人のクリエイターに語ってもらった。彼らにインスピレーションを与える7つの場所は、我々をも大いに刺激してくれることだろう。



河井寛次郎自身で設計し、亡くなるまでを過ごした住居である記念館。京都の民家街にひっそりと佇むこの建物では、自身で収集し、配置した家具もそのまま公開されており、美意識ある彼の息遣いまでも感じられそう。日本の民芸の第一人者として、芸術家として活躍した彼が残した数多くの作品も展示されており、その奥深い魅力を堪能できる。囲炉裏や土間など、伝統的な日本建築を目にできるということもあり、海外からの訪問者も多いという。

「河井寛次郎は大正から昭和にかけて活躍した陶芸家、詩人、造形作家、インテリアデザイナーなど、多様な顔を持つ芸術家。僕自身家具やアートが大好きなので、いろいろな本を読んでいるのですが、デザイナーのシャルロット・ペリアンの自伝の中に彼が登場したことで、非常に興味を持ちました。そして京都に記念館があると知り、足を運んだんです。1937年に河井自らが設計して建てた工房と自宅が公開されているこの記念館は、受付を設けるなど少し改装もされていますが、大部分は河井寛次郎が家族と暮らしていた当時のまま。デザイン画、蒐集品、陶器、木彫や奔放な書など、彼の作品も数多く展示されています。自宅の奥には登り窯も残されており、河井寛次郎の暮らしと仕事、両方の面影を感じることができる。陶器、家具、空間、書物すべてにおいて素晴らしいし、何よりも流れている“気”がすごく良いんです。日本人としてのクリエイティブを再確認させてくれる。同じ日本人のクリエイターとして、メイドインジャパンの大切さや、仕事に対する自分の考え方を整えてくれる場所です。時代のムードが変わり、豪華=リッチから、上質=リッチになりましたが、この流れは世の常であると思います。そんな時代だからこそ、これまで以上に“物事の本質とは何か”を知らないといけません。河井寛次郎記念館には生活から仕事の向き合い方まで、そんな物事の本質が詰まっていると思います。それは“バランスよく本質と向き合う”ということ。クワイエットラグジュアリーというキーワードで今のファッションが語られますが、ランウェイなど本来の着飾るというファッションにおいては、非常につまらない時代になるかもしれません。服だけではなく、健康、生活、車、食、人付き合いなど全てにおいてバランスよく、程よく本質と向き合う。でも、向き合いすぎるとそれはコンフォートではなくなる。シックとは、クールでもある。そんな気づきも与えてくれる場所です」。

河井寬次郎記念館
京都市東山区五条坂鐘鋳町 569 075-561-3585 営業時間:10:00-17:00 (入館受付は16:30まで) 定休日:月 (祝日開館・翌日休館) ※夏期休館・冬期休館有り

藤井隆行
武蔵野美術大学を中退後、セレクトショップのスタッフを経て2001年よりnonnativeのデザイナーに就任。突き詰められたデザインで表現されたシンプルかつモダンなウエアは、海外からも高く支持されている。家具、アートにも造詣が深く、収集家としての一面も持ち合わせている。

Edit & Text Satoru Komura

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