BLOODY ANGLE [神泉]

様々な人々を惹きつける カルチャーに根ざした選曲と空間

国内ヒップホップシーンにおけるレジェンドの一人であり、〈翠月(ミツキ)〉や〈MADAM WOO TOKYO(マダム ウー トーキョー)〉、〈DOMICILE TOKYO(ドミサイル トーキョー)〉などのディレクターも務める、RYUZO。そんな彼が最初に手掛けたミュージックバー〈BLOODY ANGLE(ブラッディ アングル)〉は一般の音楽好きから著名人、海外アーティストまで人種国籍を問わず、多くの人々が訪れる人気店だ。この場所では誰もがお酒を片手に音楽に身を委ね、会話を楽しむ。異なるカルチャーが混ざり合い新しいものが生まれる、文化の交差点のような場所だ。
〈BLOODY ANGLE〉はなぜこのような場所になり得たのか。渋谷の喧騒を抜けた道玄坂の上、神泉に再オープンした新店で話を聞いた。

自分の遊び場を
自分で作る

〈BLOODY ANGLE〉1号店が宮益坂にオープンした2016年当時、ミュージックバーはクラシックなジャズをかけるオーセンティックなものが主流で、〈BLOODY ANGLE〉のような近未来的な内装やオリジナリティのある選曲をするスタイルは今ほど一般的ではなかった。そんな中なぜオープンへと踏み切ったのか。そこにはRYUZOと、その盟友との音楽と遊びの昇華の仕方があった。「元々HIPHOPをやっていた時代に、トラックプロデュースをしてくれていたのが、今〈BLOODY ANGLE〉でレコードの買い付け、セレクトを担当してくれているLostface(ロストフェイス)というやつなんですが、彼がやっていたレコード屋が閉まることになり、大量のレコードが行き場を失っていたところLostfaceから“毎日飲み歩いているからバーしましょうよ”と持ちかけられたんです。自分もある程度年齢を重ねて遊びに出向くより、自分の遊び場を作りたいという思いがあったので、その話に乗ることにしました。ただ、音楽のことはわかるけど、内装やデザインのことは全くわからない。そんな時に遊びにいった〈VISION(ビジョン)〉というクラブのパーティーで空間プロデュースをしていたのが、YOSHIROTTON(ヨシロットン)でした。当時の彼は内装を手掛けた経験は全くなかったのですが、あまりにその空間が格好よく、『内装できないの?』と声をかけたんです。それがきっかけで僕の手がけるお店の内装は全て彼にお願いするようになりました」。

Left Lostfaceのセレクトは5店舗ある〈BLOODY ANGLE〉全てで異なり、少し高めの年齢層を想定した神泉ではヒップホップ、和モノはもちろんのこと、SOUL、FUNK、ジャズなどシックな選曲も目立つ。店内にあるレコードは全て購入可能なのも、買い付けを常に行うブラッディ アングルならではのアプローチと言えるだろう。
Right YOSHIROTTONがデザインした室内は、過去と未来が入り混じった独特な雰囲気を持つ。店名はニューヨーク チャイナタウンにあるドイヤーズ・ストリートの別名が由来。近未来のアジアンマフィアの隠れ家をイメージした店内や、アジアンテイストなインテリアなど様々な要素が入り混じり、まさにネオトーキョーを感じる仕上がりになっている。
海外アーティストも唸る
バイヤー目線のセレクト

遊び場での出会いが新たな形を生み出す姿は、まさに今の〈BLOODY ANGLE〉を見ているようだが、この店がこれほどまでに人を惹きつける魅力はやはり音楽の存在が大きい。

「2000年代初頭にLostfaceはNYに住んでレコードをアメリカで買い付けて、日本に送っていたんです。今でもレコShowや現地のレコードマニアの家に直接行って買い付けをしながらNYからMiamiまで車で移動していくなんて事をやってるバイヤーは相当少ないと思いますね。2024年に(笑)。本人もトラックメーカーなんでサンプリングネタにも詳しい。オーセンティックな曲をかけるお店はたくさんあるけれど、新たなサンプリングのネタ元を提供し、さらに販売するミュージックバーはおそらくうちが初めてだったと思います。この店がほかと違うところはレコードマニア的なセレクトではなく、レコードバイヤー、プロデューサー目線でセレクトをしているところ。国内外のアーティストが集まるのはその審美眼が面白いからだと思うんです。だからスウィズ・ビーツ(DMX、Jay-Zなどのプロデュースを手がけた2000年代を代表する音楽プロデューサー)が店のレコードを全て買いたいと言ってきたこともあったし、BJ・シカゴ・ザ・キッド(チャンス・ザ・ラッパー、ケンドリック・ラマーとも共演するシカゴ出身のR&Bシンガー)がずっと店に居座って帰らなかったこともあった。音楽を通じて感覚が近しい人たちが集まり続けるんです」。

RYUZOが考える
カルチャーへのリスペクト

様々な人々を惹きつける〈BLOODY ANGLE〉には、RYUZOの経験と音楽への思いが強く反映されているが、店作りにおいて最も重きを置く部分をこう語ってくれた。「お金よりかっこいいことを指針にしてしまうんですよ。普通経営をしているとお金に目がいってしまう。だけどストリートの中で育ってきて、カルチャー的視点でかっこいいと思うものを優先するのが僕のテーマ。お金よりもそこを重視する人たちと仕事をするようにしています。いくらお金を積まれてもそこにリスペクトがなければ絶対に店には触らせない。スタッフが働いていて自分の店をレペゼンできないようでは意味がないと思うんです。お金よりも彼らが楽しく、カッコつけられて、誇りにできるような店作りをしたい。もっと商売の上手なお店はあるかもしれないけど、カルチャーに根ざした選曲と空間づくりはどこにも負けないと思っています」。
芯を持ち、自分の考えを店へと反映させる。それは音楽や内装、スタッフへと伝播し、その思いに共鳴する人々を集める。自分たちのカルチャーを誇るマインドが〈BLOODY ANGLE〉は文化の集合地としての地位を確立させている。

今回Lostfaceによりセレクトしてもらったお店を象徴する10曲には、北島三郎、目黒祐樹といった和モノが多く名を連ねる。「漁歌」はトライバルファンクのようなビートに北島三郎の声が乗る不思議な曲。海外のダンサーもこの曲を聞くと思わず踊り出すという。

RYUZO 1994年よりラッパーとして活動を開始。その後自身のレーベル「R-RATED RECORDS」を設立し、アナーキーらを輩出した。現在はブラッディ アングルを始め、〈翠月〉や〈MADAM WOO TOKYO〉、〈DOMICILE TOKYO〉など様々なお店のディレクターを務める。

BLOODY ANGLE
東京都渋谷区渋谷 1-15-16 4F
03-6427-5178
bloodyangle.tokyo

AUDIO DATA
SPEAKER : YAMAHA VXS8
AMPLIFIER : YAMAHA MA2120 / YAMAHA PA2120
TURNTABLE : Technics SL-1200 MK-3-K / Technics SL- 1200 MK3D
DJ MIXER : Pioneer DJM-450
CARTRIDGES : Taruya

ESSENTIAL MUSIC
BLOODY ANGLEを象徴する10曲
01 柳ジョージ [祭り囃子が聞こえるのテーマ]
02 北島三郎[漁歌]
03 sapo [been had]
04 willie colon [el dia de suerte]
05 savana [all i have]
06 meters [hand clapping song]
07 phyllis dillon [woman of the ghetto]
08 麻倉未稀[ビリージーン]
09 目黒祐樹[はみだし野郎の唄]
10 竹内まりや [plastic love]

Photo Naoto UsamiInterview & Text Katsuya Kondo

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