YBA & BEYOND THE NATIONAL ART CENTER, TOKYO
90年代のイギリスに衝撃を与えた YBAの反骨精神

近年稀に見る大規模な美術展がイギリスから来日した。国立新美術館で開催中の「テート美術館-YBA & BEYOND 世界を変えた90s英国アート」がそれだ(会期は5月11日まで。6月3日〜9月6日は京都市京セラ美術館に巡回展示)。YBAとは「ヤング・ブリティッシュ・アーティスト」の略で、1990年代の英国アートシーンを革新したアーティストたちのことを指す。当時はサッチャー政権後の失業率悪化など社会的混乱が渦を巻いていた。先行きが見えず、つのる不安から起こる社会や個人の問題に対して声を上げ、既存の枠組みを破壊し、新しい表現を通してメッセージを発信したのがYBAや彼らと同時代のアーティストたちである。この展示でまず興味深かったのは、展示会場の一番最初に展示されているのがフランシス・ベーコン(1909~1992)の作品であったこと。ベーコンは暴力や苦痛、むき出しの感情など人間の生々しい暗部を追求した20世紀を代表するアーティスト。彼はYBA世代ではないが、YBAの先駆けといえるテーマ性や表現を持っていた存在として展示のトップバッターに選ばれたのだろう。そしてベーコンに続いて展示されているのがダミアン・ハーストだ。ハーストこそがYBAの中心人物である。彼が学生時代に企画したグループ展「フリーズ」がYBAのムーブメントの起点として知られるイベントである。それまでは伝統的なギャラリーで展示することがアート界の常識であったのだが、フリーズ展はロンドン東部の使われなくなった冷蔵倉庫を会場とした。集結したアーティストはハースト同様に気鋭の表現者であり熱気に満ちていたことはもちろんであるが、物理的空間である展示会場のあり方から常識を打ち破ったことで、その場に足を運んだ人たちは身をもって英国アートシーンの新潮流を体感したわけである。



90年代の英国アートを
今振り返る意義
今回の展覧会では、90年代の英国アートが大きく6つのテーマに分けて展示されている。“YBAをはじめとするニュージェネレーションの登場”。“未完成の建築物が目立った景色や、ジェントリフィケーション(都市の富裕化現象)により行き場を失った人が増加したことをテーマにした都市イメージ”。“雑誌やレイヴの影響力による音楽やサブカルチャー、ファッション”。“ドラッグやエイズをはじめとした病と現代医学”。“家族関係や個人のアイデンティティにフォーカスした、家という個人的空間”。“物質文化に対する儚さから身近にあるものを扱った作品”。という6つだ。各テーマを象徴する総勢58名のアーティストと、約120点の作品が集結し、テーマごとに作品を鑑賞して回った最後には、アートを通して当時のイギリスが抱えていた社会的課題について自分も考えさせられる時間であったのだと気づく。これはなにもYBAの作品だけが社会的、政治的メッセージを持っているということではなく、90年代の英国アートが30年以上時を経た現代で改めてフォーカスされ、そして鑑賞に耐えられる強度を持っていることから、アートは個人が社会に対してメッセージを発信できる強力なメディアであり、タイムレスに保存できる装置なのだと証明してくれている。そのような展示が今の日本で開催される意義を考え、どのように自分ごととして受け止め、行動に繋げられるかが問われているのではないだろうか。



会期:2026年5月11日(月)まで
会場:国立新美術館
住所:東京都港区六本木7-22-2
開館時間:10:00~18:00(金・土は20:00まで開館、入場は閉館の30分前まで)
休館日:火曜日(5月5日は開館)
2026年6月3日(水)~2026年9月6日(日)
京都市京セラ美術館に巡回
※ 東京展と一部展示内容が異なります。
| Text & Edit Yutaro Okamoto |












