1.1 [祇園・京都]

音と酒とモノが 人との繋がりを作り出す

店内には南貴之がクリエイティブディレクターを務めるヴェクターショップとイズネスのコラボによって制作された周年Tシャツやリーバイ・パタによるグラフィック、エデンワークスの篠崎恵がディレクションを務めるペーパーエデンなど、YANYANと交流の深いクリエイターたちの作品が所狭しと並んでいる。

江戸時代から花街として栄え、現在も日本を代表する繁華街のひとつとして数えられる京都 祇園。伝統的な文化が色濃いこのエリアは、三条や四条に比べて若者たちがあまりお店を出さない場所だと言われている。そんな祇園に3年前から店を構えるのが〈1.1〉だ。看板もないシンプルな白いドアのみの外観はかなり分かりづらい印象がある。しかしこの店は連日名だたる文化人もわざわざ足を運ぶ繁盛店。決して派手な宣伝はしないにもかかわらず人々を惹きつける秘密を店主のYANYANに聞いた。

サービストークはしない
音楽を通じた対話

「僕、基本的に接客しないんですよね、あまりお客さんと喋らないんですよ」。
YANYANの口から出てきたその言葉は飲食店の店主らしからぬ一言だった。しかし、そこにはDJを経て〈1.1〉をスタートさせた彼らしいお客様との接し方があった。
「大学を卒業後は自分の店を持ちたいという漠然とした夢を持ちながら、飲食店で働き、ニューヨークハウスを中心としたDJをしていたんです。最盛期は月に8~10本程度こなしていました。その時の経験が今のお店にもかなり活かされています。接客をしない理由は、選曲が僕にとっての接客だから。TPOに応じて最適な音楽をかけているからせっかくなら音楽を聞いてほしい。お店自体もシアタースピーカーを置いて、大きな音で難解な音楽をかけるようなかしこまったスタンスにしたくなかったんです。純粋に僕が聞いていて楽しいと思う曲を気楽に聞いてほしい。ミュージックバーとしては音楽の入り口になるようなお店で良いと思っています」。
本企画でセレクトした10曲のほかにも〈1.1〉のインスタグラムを見てみると、ニーナ・シモンにジョルジャ・スミス、ボノボからUAまで様々なジャンルの曲が新旧問わず並んでいる。来てくれるお客様に音楽への間口を広げてほしいという彼の気持ちが反映されたラインナップだ。

Top Left タカヒロミヤシタ ザ ソロイストのグラフィックやUAとのコラボライブペインティングを行うリーバイ・パタとは前の職場からの付き合いであり、お店のロゴも彼の手によるもの。店内には酒瓶に彼が描いた〈1.1〉のグラフィックもあり、関係性の深さが伺える。
Top Right マグカップはYANYANの後輩であり、京都の新人作家アーティストのHaruna Ogamiの作品。中央はYoji Yamada、下はKei CondoとそれぞれYANYANが個人的に好きな作家のものを集めているという。
Bottom Left 入り口横の書は以前Silverでも取材した、アーティスト 新城大地郎のもの。新城がたまたまお店に遊びに来たところから関係は始まり、現在では彼が京都に来た際には一緒に行動するなどプライベートでの付き合いも深い。
Bottom Right お店イチオシの唐揚げと現在6代目の杜氏が営む中村酒造場の芋焼酎。芋焼酎独特の匂いが抑えられたフルーティーな味わいが特徴的で、ソーダ割りにすると唐揚げとの相性が抜群。杜氏とは個人的な交流もあるそうで、この芋焼酎が楽しめるのは全国でも限られたお店のみだという。
実直な人との向き合い方

YANYANの交友関係の広さはもちろんのこと、人付き合いに対するフラットな姿勢に驚かされた。その関係性はファッション業界の人々はもちろんのこと、アーティストから都内の飲食店など多岐に渡る。普通では中々出会うことのない人々の接点はどのようにして生まれたのだろうか。
「このお店に誰かが連れてきてくれたり、紹介されて知り合うことが多いですね。基本的には必ず一度会ってみて自分に合うのかを判断する。よそ者を受け入れない雰囲気のある京都では、広い視野を持って関わっていくことが重要だと思うんです。周年のイベントでは東京から様々な方がお祝いに来てくれるので本当にありがたいです。だからこそ僕も東京へは頻繁に行くようにしているし、お店に置くものやお皿も基本的には一度会ったことがある人たちから購入するようにしています。好きだと言って何も買わない、そんな嘘っぽい関係を作りたくないし、ものづくりをしている方々にはそれくらいでしかお返しができないと思うんです。僕は嘘がつけない性格で、はっきり物事を言うタイプなので人から反感を買うこともありますが、ビジネスで人付き合いをしているわけではないことが伝わるからこそ、今の自分の環境があるのかもしれません」。
取材中、自らの後輩の名前や彼らが作っているお店や器を紹介してくれたYANYAN。自分のことをそっけない対応だと言っていたが、少し冷たく聞こえる彼の受け答えの中には、周囲の人々への感謝や良いものをしっかりと伝え、広めていこうという意志が感じられた。彼にとって〈1.1〉というミュージックバーは自分の好きな音楽やお酒、食事を広める場であるとともに、ビジネスを超えて人と人の輪を紡ぐ空間としての役割を果たしているのかもしれない。

Left 「最低限のオーディオしか使っていない」と語るYANYANだが、ロータリーミキサーとステューシーのスリップマットの組み合わせは、ハウスDJという彼の音楽の出自やファッションの好みをよく表していると言える。
Right 音の特徴を率直に引き出すモニタースピーカー、JBL4312G。音源に過度な装飾がされず、音楽を会話とともに楽しんでほしいと語る彼らしいチョイス。

1.1
京都府京都市東山区富永町 縄手東入ル南側 ユニバース会館 3F
@1.1_kyoto

AUDIO DATA
SPEAKER : JBL 4312G
TURNTABLE : Technics SL-1200MK3D
CDJ : Pioneer XDJ-700
MIXER : Alpha Model 1100 Music Mixer

ESSENTIAL MUSIC
1.1 を象徴する10曲
01 Yukihiro Takahashi [回想]
02 Ryuichi Sakamoto [Tibetan Dance]
03 The brand new heavies [You are the universe]
04 Sister sledge [Thinking of you]
05 Robert Glasper [Afro Blue]
06 Herbert [The Audience]
07 Mika Nakashima [接吻(Dennis Bovell Lovers Dub #2)]
08 MFSB [Love is the message]
09 Nicolette Larson [Lotta Love]
10 Louie Vega [Element of life]

Photo Naoto UsamiInterview & Text Katsuya Kondo

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